犬が吠える。
わたしに吠える。
わたしの姿など
見えるはずがないのに。
犬が吠える。
わたしに向かって吠える。
犬にだけは
見えるのかもしれない。
おもむろに上昇すると
わたしは二階のベランダに降り立った。
どの部屋も暗かった。
わたしは寝室に目を凝らした。
女が眠っていた。
わたしの男の腕のなかで。
窓ガラスを通り抜けて
わたしはふたりに近づいた。
男の腕を使って
女の首を絞めるために。
選出作品
作品 - 20190506_857_11200p
- [優] わたしが死んだ夜に。 - 田中宏輔 (2019-05)
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わたしが死んだ夜に。
田中宏輔