選出作品

作品 - 20190501_795_11194p

  • [優]  葵橋 - 田中宏輔  (2019-05)

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


葵橋

  田中宏輔



真夜中、夜の川
川面に突き出た瀬岩を
躱しかわしながら
ぼくの死体が流れていく
足裏をくすぐる魚たち
手に、肩に、脇に、背に、尻に
触れては離れ、触れては離れていく
この川に流れるものたち
朽ち木につつかれて、枯れ葉を追い
つぎからつぎに石橋の下を潜り抜けていく
冷たくなったぼくの死体よ
木の切れ端に、枯れ草、枯れ葉が
水屑に、芥に、縺れほつれしながら、流れていく
冷たくなったぼくの死体が、流れていく
ぼくの死体よ
絶え間なく流れる水
岸辺に、瀬に、囀る水の流れ
うねり紆りしながら
月の光を翻し、星の光をひるがえし
流れに流れていく、水の流れ
水面に繋がれたさまざまな光の点綴が
ぼくの目を弄しながら流れていく
水面に靡く、窓明かり、軒灯り、街灯の
滲み煌く輝き、ほくる眺め
揺蕩う、映し身
ぼくの死体よ
冷たくなったぼくの死体よ
おまえを追って
いまひとり

ぼくはまた葵橋の上から身を投げた






  躱しかわしながら            かわしかわしながら
  水屑に、芥に、縺れほつれ        みくずに、あくたに、もつれほつれ
  囀る                  さえずる
  うねり紆りしながら           うねりくねりしながら
  点綴                  てんてつ 
  靡く                  なびく
  軒灯り                 のきあかり
  揺蕩う                 たゆたう