選出作品

作品 - 20190413_618_11169p

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トワイライトアテンダント

  ゼンメツ

がっちりと握りしめた飛行機で、
オトモダチをひっぱたきまくってたユーくんが、
来月、ケーちゃんと結婚するらしい。
塩化ビニル製の窓の塗装は
いつごろかすれたのか、
誰一人として
顔を覗かせることなんて
なかったんだけれど、
ぜったいに、
墜落しなかった。
当時、
等しくやわらかだった
はずのてのひらを、
こうして目の前の陽にかざしてみると、
都合よく飛行機曇が、
まあ、走っているわけもなく
どこだかわからん方向で、
クソみたいなヘリが、
バリバリとそらを引き裂いていた。

ケーちゃんと俺は、
学生のころの一時期付き合ってたんたけど。
だからなんだってのか
「あのころ」がキリなく、
坂を転がっていく。
のを、
目で追っている。
そして、
バイトで乗りまわしていたジャイロエックスが、
めのまえを都合よく、
なんて、
やっぱ走り抜けてはいかないんだけれど、
こんど同窓会で会うとき、
人妻にアップデートされたケーちゃんと、
わんちゃんあったりしないかな。

仕事帰りに、
むかし好きだった
ナイススティックとかいう
ふざけた名前の菓子パンを買った。
すげー長くて、
すげー甘くて、
相応にカロリーがやばい
バカみたいなパンだ。
そういやユーくん
こいつを袋のまま構えて、
野球のマネごとをしていたな。
あいつバカだったから。
フルスイングして、
袋んなかでクリームぶっちゃかして
コンドームみたいじゃねっつて
めっちゃ笑ってた。
すげーバカ。
でも、
俺もバカだったし、
それ見て笑ってた。

つか俺、
ケーちゃんとするとき
コンドーム一回もつけなかったんだ。
理由とかないけど、
そもそも、
いまさらなにを。
ほんと、
なにを、覚えてるってんだ。
まぶたを閉じると、
それなりに都合いい思い出ばっか、
駆けてくんだけど
てかやっぱ、
こんなもんの都合がよくても、
どーなるわけでもないし。

夕暮れの空の、
すげー遠いところに
ぽっかりと雲が浮かんでて
子供のころ、
あれ見るともう
泣きそうになっちゃって
だってなんか、
その雲の下の知らん街まで
瞬間移動させられるような気がして、
したら俺きっと、
なにもかもわからないもんだから
ただただそこにつっ立ってるしかないのに、
その街の人たちはその街の人たちで、
なんも知らんもんだから、
かわらず普通にうごき続けてて、
それがどうしても怖くて、
仕方がなかった。
てか、いまはもう大人になってんだし、
どうだって、
帰ってこれるはずなんだけど、
かわらず不安で、
かわらず悲しくて、
あんなもん、
見つけなきゃよかった。