電線を伝う眼の中に指を入れる
受精した鉄塔は白髪のグラニュー糖
月に病む肺の外周を
群青色に染められた疑問符たちが浮かび漂う
落ち葉がドアを塞いだ
風がドアを撃ちたかったのに
発熱した林檎の芯にボルトを捩じ込んだとき
ラズベリーの頬を鏡が撫でるだろう
それでいて写し出された炎は汗を掻きながら
夜よりも純白な渋滞を駆け抜けるだろう
4時間も息を吸っていた
石化した果物は蜂蜜色の空を支えながら
栞の代わりにクラゲの指を挟めておいたおかげで
本の文字はさめざめと濡れて重くなった
上品な拍手のように
葉の付いた満月が後ろに重なると
僕は恐る恐る最初の足跡に合わせ
鳴りどよめく棘を靴裏に刺していった
男性の声の雷鳴
ノイズを受胎した蝸牛のぬめりが
どこまでも避雷針を遡っていく
妊娠した電球は
臍の緒に繋がれ
宙吊りにされて叫んだ
止まらないんだ
止められないんだ
取り止めがないんだ
実は地上を恐れすぎていたために
自殺したガラスの破片が散らばっていたとしよう
僕の胴体は開かれた街の影だ
絵本の世界のような蒼白い家並みが続くとしよう
その深奥で自分の死を嘆き続ける
氷漬けの蝶がいるとしよう
豚に咲いた火花のように
吸い取られた鉛の樹木が羽根を広げる
しなやかな便器の産毛を数えながら
鳥を飼い慣らした神父が病んでいる
ティースプーンに死を
ガソリンの瞳の中に一滴恵んでくれ
か弱い眼差しを吸収して綿帽子は貰い泣きしていた
星空がそこにある酸素を燃やしている
ついに静脈と動脈が
羽交い締めに巻きついた
嘆かわしい十字架の真ん中に
生卵を磔にしてやるだろう
火に接近する乳房が
南風を撫でるだろう
それも優しく
ビタミンCが足りないだろうから
選出作品
作品 - 20190312_196_11114p
- [優] Artery&Vein - 鴉 (2019-03)
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Artery&Vein
鴉