選出作品

作品 - 20190306_122_11107p

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闇の静物史_1:贋物について

  鷹枕可

_I

血の通わぬ花嫁衣裳を摘む様に
その亡骸の名を教えてください
砂鉄色に滴る若草は
鉤の徽章を隠してしまうから
黒い薔薇に赤い窓縁
雲母の胎児
月曜日は
シャンデリアの群像孤独史
赤紙の降り頻る
西暦1945年の兄妹は駈け落ちて
地獄に逃れていきました

_II

皆既、蝕酸四輪街宣拡声器
モスクワに霰、
壊血病に斯く苦難の行軍は敗れたり
紙片婦が扁桃葉繁しくも葛藤し
有るまじき幾何装束が
猩猩緋を恃まんと慾す
起源、薔薇十字に
肉体は陰のアンドロギュヌスを随想し
屍蛾翼累累と
塹壕を埋葬隧に肖ゆ
恐慌実験、
争乱の慈母
光悦に溺る蜘蛛巣が玻璃窓の如く在り

銃傷、襤褸磔像に一筋の裂罅
マンドラゴラ
綺想集成編纂員を喚鳴し
標本室に永続過程たる降灰
純粋存在
闇の臍帯
ベスヴィオに死屍、
蹲り
静‐動植物を嘲嘲と蠱惑しつつ
野蒜、奥歯に挟まれるがごとき齟齬
虚実、馬鈴薯に人面蝶留まり
神経毒その眩暈を
夙に粛粛と捌けり

狂奔、根絶
自動焼却室
今際の今新たしき前衛戦争美術を掲揚し
零落国家瑞々しき死の咽喉を含み
悪徳の悉くを遷移甦生せるを
禍禍し、血胚孕む死屍
存在に価なかればこそそは価に価せざるも
佳し、
よもや頸筋に水棲聖霊亜綱の噛跡なきか