水裹(みづづつ)み、水籠(みごも)り、水隠(みがく)る、
──廃船の舳先。
舵取りも、水手(かこ)もゐない、
──月明(げつめい)に、
水潜(みくぐ)り過ぐるものがゐる。
新防人(にひさきもり)の亡き魂(たま)の
──その古声(ふるこゑ)に目が覚めて、
水潜(みくぐ)り過ぐるものがゐる。
呼び寄せらるる水屍骨(みづかばね)、
似せ絵のやうな
貌(かむばせ)。
──その貌(かむばせ)は、亡き新防人(にひさきもり)に、瓜二つだつた。
あなたが水の中を過ぎるとき、わたしはあなたと共におる。
(イザヤ書四三・二、日本聖書協会・口語訳)
わたし?
──わたしは、長夜(ちやうや)の闇に、夢を見てゐました。
さうして、
毎日毎日(マイヒニヒニ) この(コノ) 道を(ミツ) 通ひました(カヨタ)。
(『全国方言資料・第三巻/東海・北陸編』日本放送出版協会、歴史的仮名遣変換)
マイ ヒニ ヒニ コノ ミツ カヨタ
海胆も、海鼠も、
コノ ミツ カヨタ
タ
、
剥がれてゆくものがある。
ひとりでに剥がれてゆくものがある。
──もう、それは、わたしぢやない。
、わたしだつた。
はぐれた鱗(いろこ)がひとつ、
龍門の下を、
潜つて、ゆ
、ゆき
まし
た
。
選出作品
作品 - 20190304_091_11103p
- [優] 陽の埋葬 - 田中宏輔 (2019-03)
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陽の埋葬
田中宏輔