選出作品

作品 - 20190227_977_11089p

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どうしようもない夜に書いた二篇の詩のようなもの

  山人

僕はかつて、荷台の無い一輪車を押し、整った畦道を走っていた
ところどころ草が生えていたけれど
そこは僕たちが走るにふさわしい硬く尖った土で出来ていて
坊ちゃん刈りした僕の前髪が開拓の風に吹かれてなびいていたに違いなかった
友達もスレンダーに施された一輪車を押しながら
たがいに何か大声で言い合いながら田の畦道を走っていたのだった

畦道は今はない
廃田には、弱い日差しが竦んで
何もかもだらしなくたたずんでいて
そこら辺の雑木は言葉を失い歪んだまま生きていた

隆起した丘を山というならば
そこには、今、いたるところが内臓で覆われ
脳漿が表面を埋めている
私はそこにある、うっすらと道のようなところを
歪んだフレームの一輪車を押しながら歩いている
ずっとずっとずっと
内臓の群れは陽炎を立ち上げながら頂きまで続いているのだろうか
その隙間を縫い
帰化植物がすべてを気にせず日を浴びていた


           



世界中が空っぽのような夜
なんだかすごく懐かしい音が聞きたくなって
こうして聴いている

街の喧騒やクラクションの音とか
女の吐息や鼓動
それらが渦となって塵とともに枯れたビル街に舞い上がって
それらが得体のしれない猛禽となって
世界に再び舞い上がる

誰か止めてほしい
この限りなく狂おしい走りざまを
疾走する死を


もう、次の日がやってきたのだ
去っていく時間はあらゆるものを駆逐して
一篇の詩を書くことも拒否してしまうだろう