選出作品

作品 - 20190122_393_11016p

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藍色ドライ・シロップ

  鈴木歯車

本の中には病気しかないよ。粘度のかぎりなく高い泥の中を泳いで,しんとした警告とともに20歳になった。確かに言ったさ,過ぎ去った諸々はいつか魚になるって。振り返ると記憶とノウハウは自然力の葬式に列をなして藍色,藍色,藍色。苦い煙のイニシエーションを終えて,あえなく問題用紙に逆戻りする。地球なんて青い琥珀,インテリアの化石さ,ぼろぼろの宇宙船さ。ホラまた,存在,掘り起こしに調査員が派遣されていくじゃないか。おれの匂いは腐った調味料,冬の熱っぽい日には恐竜の影がたしかに生きているんだ。無味無臭の影がまだそこでは生まれては姿を消す。この気持ちなんだろうおれ死にてえのかな,良いことひとつも無かったくせに,しみったれた反省会なんてしたくなるから冬はきらいだ。
ときおり息のつまる夢を見て目を覚ます。でも精神科なんて結構ですぼくも皆も極度に薄まったコンクリートなんで。砂場の中,即興でしゃべった音階がすぐ答えに祀り上げられて嫌になる嫌になる。

白い。白い。

そう無人駅だ。「終点……『百葉箱……百葉箱……』」俺たちは感動した。千の弱音で俺を刺す森林。夏の音を探そうとあてなくバスに乗る。終点はもう知らなくていい。乾ききった頓服薬のような関係。スピッツが「言葉ははかない」と歌うのがよくわかって悔しい。世界中の雑草に水をやって後は,どうにか目に入るものだけ片付ける。どろどろの冷や汗,もうあの味に悩むことはないだろうドライ・シロップ。"助けてくれてありがとうございます."と言葉少な,乾ききった僕はリターンする。――不発音とともに落日。
「すべては肯定も否定もなくただ黙っているのみである」誰かが言っただろう一番黒い夜,関節をすべて外したような詩をこそこそ,そしてまた日が……