ラブソングは歌わないで。ラブソングは、う、
歌わないでよ。どもりがちなきみの、決して
どもらないうたのなかにすむあなたへ、わた
し、恋してるのに。きみは覚えているために、
たくさんの小石にたくさんの名前をかく。河
原で、ぼくは忘れるためにたくさんの小石を
蹴る。川のなかへ、たくさんの名前が沈んで
いくのにぼくは、すべて覚えている。
――あなた。きみはなにもかも忘れていきま
す。どもらないうたのなかで、わたしの
顔をひそませながら踏む韻はいとおしい
吃音です。ラブソングなんて聴かないで、
そんなものをきみのこころにいれないで
ください。わたし、のどのふるえをドキ
ドキしながら待っていました。わたしは
きみにどもりながらでもふつうに、愛し
てもら、いたいだけなのです。
「あなたはどもらないのでしょうか、
「物語のそとなら。
きみ。うたのなかのあなたへぼくは恋をした
から、ラブソングになって。物語、言葉と言
葉の距離、あるいは距離のいれられない位相、
永遠に知らないでしょう。ぼくたちの記憶の
川底で、ぼくだけが覚えているたくさんの名
前ひとつひとつを、できるだけていねいにか
きだしていくけど、きみの目に映るのはきっ
と、川面のきらめきだけだから。
選出作品
作品 - 20190112_099_10996p
- [優] rivers - 完備 (2019-01)
* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。
rivers
完備