お父さん お母さん 見上げてください
そして拝んでください
あなた方の白痴の子は
ただ一本をもって
遥かに透き抜ける大空へと伸びていきます
限りなく広がる空間に
鉄の身ひとつ 質量を伴いながら
欠けているように細いその首を
まっすぐ無垢に伸ばすのです
垂れたワイヤーのその端で
フックが寄る辺なしに揺れるなか
望むがままに伸び続けるのです
その行動に思惟はありません
あの子は全くの白痴なんです
親である人間たちが電力を与えてあげないと
動くこともできない子なんです
まことに図体ばかりが大きくて
ひとりでペンキも塗れないかわいそうな子なんです
それがただ一本 たったひとりで空に伸びていきます
どんどんと思惑うことなく伸び続けていきます
父兄の皆さま お願いです! 見上げてください!
舌が喉にかかって嘔吐しそうになっても
雲一つないあの青天へ
刺し入っていくあの子を どうか!
空は見えない血を噴き出しました
あの子は何も考えていません
ただの鉄の塊には考える脳などあるわけないのです
だけど ああ実に尊い
見上げてください 日光に鋼管は燃えあがり
大いなる天上を切り裂いている
お父さん お母さん あの子は神になりました
ただ思うがままに伸びていって
私たち人間の頭上で鎮座しています
見上げてください
そして拝んでください
あなた方の白痴の子は
空を殺して 神になりました
選出作品
作品 - 20181127_867_10916p
- [優] たったひとりで伸びていったクレーンへと捧げる詩 - 渡辺八畳@祝儀敷 (2018-11)
* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。
たったひとりで伸びていったクレーンへと捧げる詩
渡辺八畳@祝儀敷