I
やさしい人の
うわごとみたいな
言葉ばかりが
疲れ切ったこころの
よすがになる
ああ あそこだな
いつか あそこへかえっていくんだな
(『ひとり部屋に居て 』友部正人)
僕にある自我が、
閉塞性が、
僕を、
僕という生き物にしている
ように
君にある自我が
閉塞性が、
君を、
君という生き物にしている
そうして
誰の思い通りにもならない存在になる
思い通りにされるということを
忌み また同時に
ひそかに恋する存在に
やさしい人の
うわごとみたいな
言葉ばかり
ふたつの自我のあいだに
想像される
自我をもたない
空間を
距離と呼ぶ
II
言葉の意味を
強く感じた経験は
罵倒を受けた
帰り道だった
言葉の意味、
それは高度さや
深遠さではなく、
自分へ向かう言葉が
反響するところにあるものだった
誰かが歩んできた
人生を想いながら
失われるのが
惜しいと思うことと
自分の人生を想いながら
そう思うことは違う
自分の想いは
いつまでも
自分が想うことの中に
とどまっている
他人の想いや考えは
自分にとって
その責任が負えないところへ
失われてしまうものだ
歯医者へでかけた帰り道、
ちょうど日が暮れ始めた、
小さな天球の下、
わが家へ続く道の周辺だけが
世界に構成されて、
その外側はなかった、
III
言いたくても
言えない言葉がある
言葉にできないことは
たくさんある
もし、それをかぞえてみるならば
目が覚めたときに 思った
本当に望むものは何か
これがしたい
あれがしたい
そんな希望も、
ぜんぶ薙ぎ払うような
本当に望むものは何なのか
選出作品
作品 - 20180807_724_10661p
- [優] 反響 - 霜田明 (2018-08)
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反響
霜田明