選出作品

作品 - 20180503_845_10412p

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耳のない空

  あおい



あなたは何かを叫びたい。
羽毛に覆われた、
皮膚のしたの空洞が、
伸縮を繰り返す。
そういえばもう何日も、
水面ににっくりと浮いた
皮膜を食べていない。
酸欠になりながら、
あなたは嘴を水のなかに
向けている。

*
向かう先はいつも同じだった。
同じ道、
同じ車、
同じ電車、
同じ箱、
そして同じ店、
ショーウィンドーに、
あなたの足の一部が売られている。
誰かがあなたの足に、
前歯を立てながら、
笑っている。
器になった大きな腹を撫でながら。

**
あなたは空を見上げる。
雪が空に舞い上がるように、
あなたの知っている耳たちが、
空高く舞い上がる。
あなたには耳がない。
生まれてからすぐに、
もぎとられてしまったから。
あなたは、
飛べない空を生きるいきもの。
けれど、
石のなかにはいない。

失われたものの数ほど、
あなたはますます鋭くひかる。