選出作品

作品 - 20180208_341_10236p

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冬のあいだ

  あやめ


ふきぬけのなかで どれだけ剥がしても立ち現れなかった 水差しにまとわりついた影や 宝石をふくめて ひらいた風景はうしろへ うしろへ流れていく だから 椅子にすわる そして 椅子をたたむ 湾曲したこの体が 過去なのか それとも現在なのか いつまでも わからない



とじた窓のちかく たむろする草花を掻きわけ 到達した光の斑は あかるかったか それとも ふかくつめたかったか くらい部屋のなかでおもては 眩むほどゆたかに錯綜し はいり込んできては すりぬけていってしまう 風の やわらかな裾の 水をたたえた浴槽のような 窓にむかってのびる廊下のてまえ 貝殻めいた 階段めいた 動悸がする



しろい壁にかけられた1枚の絵の 脈絡もなく 水鳥たちが飛びかう 鳴きごえはあらかじめ 録音されたものだったのに うつくしく響いた くりかえしくりかえし ひんやりとした室内で やわらかな猫を抱くということは こういうことなのだと 凝固ではないえいえんの 耳のようにふくざつな草花は やはり くりかえし 風になぎ倒されて 比較的ゆっくりと 沈静していく