庭にいるのはだれか。 (エステル記六・四)
妹よ、来て、わたしと寝なさい。 (サムエル記下一三・一一)
箪笥を開けると、
──雨が降つてゐた。
眼を落とすと、
──雨蛙がしゃがんでゐた。
雨の庭。
約束もしないのに、
──死んだ妹が待つてゐた。
雨に濡れた妹の骨は、
──雨のやうにきれいだつた。
毀(こぼ)ち家(や)の雨の庭。
椅子も、机も、卓袱台(ちやぶだい)も、
──みんな、庭土に埋もれてゐた。
死んだ妹もまた、
──肋骨(あばらぼね)の半分を埋もれさせたまま、
雨に肘をついて、待つてゐた。
肋骨(あばらぼね)の上を這ふ、
──雨に濡れた蝸牛。
雨に透けた蝸牛は、
──雨のやうにきれいだった。
手に取ると、すつかり雨になる。
戸口に佇(た)つて、
──扉を叩くものがゐる。
コツコツと、
──扉を叩くものがゐる。
庭立水(にはたづみ)。
わたしは、
──何処へも行かなかつた。
わたしは、
──何処へも行かなかつた。
死んだ父もまた、
──何処へも行かなかつた。
戸口に佇(た)つて、
──繰り返し扉を叩いてゐた。
戸口に佇(た)つて、
──繰り返し扉を叩いてゐた。
選出作品
作品 - 20180201_108_10213p
- [優] 陽の埋葬 - 田中宏輔 (2018-02)
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陽の埋葬
田中宏輔