選出作品

作品 - 20170909_165_9895p

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秋の詩

  霜田明

長生きしているように
君は眠っていて
僕は冷たい牛乳を注いでいた

過ぎゆく季節の代わりに
君は眠っていて
窓辺のベゴニアが花を落とすと
突然風がやんだようになった

君に届かないことを愛していたから僕は
君にも愛されている気がしていた
過ぎ去った季節は
僕らの外で何度も繰り返され
そのなかで僕らにそっくりな
二人が暮らしていた

目を覚ませば鏡の中の君は
また誤解を解くために
過ちを探しはじめるだろう
どこにも間違いのなかったことがわかれば
忘れ去るためにまた長い眠りに入るだろう

僕が眠りかけていると
とつぜん君は電気を点けて 宵が
僕らの代わりに人格になろうとしているところだった

僕は僕らの間を過ごす
不思議な活気に気がついていた

優しさと 残酷さが
秋の瞳孔の透明な水の中を
行き交いしていた