選出作品

作品 - 20170722_339_9777p

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喪われた白罌粟の子供達へ

  鷹枕可

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硬い薔薇が石膏に解けてゆく刻限
頓死したピアニストは橄欖の様に昼の齎す虞れに咀嚼されていった
彼の重篤な切迫を饒舌な昼顔たちは真鍮の喇叭の様に吹聴している
あのユダヤ人達が
絶滅収容所に送られてから幾年月かが経ったのだろうか
無感覚に沈み遺灰の様に蹲っていた
死が罰であり
余命は呪わしく縁戚者の訃報を囁く
私は病み果てた総身を姿見に映す
机上には食べ掛けの無花果が死婚を祝っていた
羸痩の骨と血、
印象は暈み
隠秘されるのみ
肉体像の窪を隆起を誰が知るか

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疾駆する彫刻家の亡命列車は
白の終りに夜を置く
ケルビムの真鍮花が群像を飲み開いた
錆びた釣鐘は誕生を祝わない
雌雄の威厳は罌粟粒程に矮躯を呈していた

昼に墜ちる
昼を充満する花殻が
火葬台には青い肉親が仰向いていた
骨の灰を
物象として
人物像は斯く鳴き喚き
嗚咽より離れゆく花々は
最後を経つつ
簡潔且つ素焼の骨壺は尚も端正であった

薔薇籠
死の抽象を終焉へと展ばす
秘鑰、劇物の壜乾燥器
それら永続死に
贈るべき埋葬を顕花に祝うとも

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昏い釣鐘の声が
墓碑を落ちる花崗岩の影像に
血の翳を踏み
慈愛と謂う名の
呪いに縁取られた少年の
傷み続ける咽喉が包帯に渦巻かれ 
十字架の影が
昼の葬列を翻って燦爛と
幌附乳母車の様に
縫針を模倣とする植物時計に斃れていた


そして
喪われた白罌粟の子供達へ、