それはまだ夏と言うには早い漆黒の夜
私はとある迷宮に足を踏み入れた
羅針盤は狂っていた
館の真ん中の部屋で目を覚ますと
開かれたいくつもの扉から
あなたの愛人たちが私を凝視している
大理石の上に横たえられた私の躰を
あなたはジャックナイフで何度となく突きさす
私の悲鳴が完璧な円形のこの部屋に反響する
あなたは私に叫べと強いる
「あなたが私の唯一の神です」
「あなたが私の唯一の神です」
「あなたが私の唯一の神です」
逞しい両腕にはあなたの愛人たちが
ひとつずつ花をタトゥーしているかに見え
誇らしげにその刺青を威武しながら
なおも悪鬼のような表情で
あなたは私の胸を切りひらく
私の断末魔のような悲鳴に
女たちは苦悶の嗚咽を押し殺しつつ
沈黙の眼でささやいている
よく透る声は供物
あなたは銀縁の眼鏡を掛けなおし
「これでジ・エンドだ」と
渇いた声で呟く
三角形の月が天窓を照らす
氷点下の初夏が終わらないままに
生贄を求め続けている
選出作品
作品 - 20170713_049_9761p
- [佳] Initiation - 朝顔 (2017-07)
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Initiation
朝顔