起床は昨日の生活の
続きの訪れではけしてない
僕は昨日の僕が
繰り返された僕ではない
起床は夢のようにゼロから織られた
新しい生命の訪れである
(窓を開け放しにして寝ていたせいだ
雨の匂いが強いから
雨が降っていると勘違いしていた)
窓からさしこむこの光
いやいや光は幻想でなく
液体のようにやわらかく
たしかにふれうる具体物
朝は大きな母の顔
空の向うからやってきた
おだやかな時間が
幼い純潔が
こうして僕を訪れるとき
君のことをなにもかも
わかってしまえるようになる
言葉も交わさず暮らし合う
ぼくらの無意識はまるで
なにもかもわかり合ってしまった
そのあとのようにおもわれる
(世界が見せるのよりずっと
身体の内部は鮮やかに見せる)
寂しさはなぜ尊いか
寂しさなしに慈悲はないから
慈悲はかならず自分の慈悲だ
他人の慈悲は慈悲ではない
世界にさんざん
遠ざけられて
ねぼけず暮らしていくことを
能力なしで許せたときに
それがまさしく慈悲なんだ
君との暮らしを反復するのと同時に
新たな生命を反芻している
そのどちらかに偏ってしか生きられない
この寂しさがもしもわかれば
(「他者の言葉の硬さに怯むな
なるだけ正しいことをしよう」)
選出作品
作品 - 20170417_105_9554p
- [優] 反芻 - 霜田明 (2017-04)
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反芻
霜田明