かれは傘をさして
演奏していた
雨が降っているから
鍵盤はぬれていて
指で叩くたびに、音符は
五線譜のすきまから
あさい水たまりにおちてゆく
雨の斜線が、草や
木々の葉のうすいみどりへとまじわり
あるいは、みつめられた
楽譜の森のなかを
二匹の山羊があるいていた
手紙をはこぶように
それは細い線のうえをひっそりとすすみ
ときどき、耳をそばだてる
けれどたちどまることのない
しずかな伴奏にすべりおちる雨が
かれのちいさな肩へと触れたとき
ほどかれた音も
踏まれるたびに光りながら
転調する水の底で
楽譜は
白く
ぬれている、シャツに肌が透けていて
かれは傘をとじ
しずくがつたう五線譜に
いつのまにか記されていた
山羊の瞳はにじみ
雨の庭をうつす
選出作品
作品 - 20161031_158_9214p
- [佳] 雨の庭 - ねむのき (2016-10)
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雨の庭
ねむのき