選出作品

作品 - 20160927_660_9134p

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忘れられた題名

  プディング

今日は偶然、雨が降ったけれど
そんなことは3日も前から既にわかっていることだった
僕の言葉は決して君のところへは届かないだろうけれど
その君のほんの手前、30cmのところに
黄色い花を咲かせたかった

革靴を食べる緑色の幼虫が
僕の目の縁を這っている
そして木肌に触れた僕は
その赤い窪みを伝う水を
傘の上に落ちた4つ目の数字を
犬の掘る穴の中へ
春とともに注いだのだ

この匂いは何の匂いか
腕を渡る蛇の残した小さな卵
折りたたまれた羽を広げる この鉄塔は
あの繋ぎとめられた送電線の中にも青い血を流している
蒸気機関車へ一人の男が乗り込むたびに
僕は水族館に立ち込める
あの暗い照明の匂いを思い出していた

何もわからないことがわかればいいのだと
国道一号線を東へ1キロ渡ったところにある
犬小屋には書いてあった
たとえ月の表面がこの青い水のもつ光沢にすっかり満たされたとしても
僕のこの剥き出しになった右目の骨格を渡る蟻たちの歩幅は
太平洋を横断するのに2年の歳月を要するだろうし
そして、
鳥と鯨のもつ大きさの違いを認識することもないだろう
僕は、
点滅し始めた信号機を渡る人間たちの真似をして
花に溜まった幼い蜜を静かに飲み込む準備をしていた

砂漠に雨が降らないのは
雨が降らないから砂漠になったのだとすれば
その風船の汚れた紐の先を君の手首に巻きつけるのは
鳥が空の中に彼らの卵を隠したのと同じ理由で
君の初めて覚えた言葉が月よりも白い海だったとして
砂をかんで開かない扉の中で
このコップの水を飲んだのは誰なのか

君の目が犬の湿った鼻先のように潤んでいる
だから僕は書いたのだった
木の幹に穴を開ける虫たちのように
今日はこの口の中で青い火が枯れるだろう
蝶の羽で作ったその手袋は
君の過呼吸をとめるのに必要なだけの容積を
その体に有しているのだろうかということを