紙製の駅で
ぼくは羊を見つめて立っている
駅を食べてしまわないように
ずっと見ていなければならなかった
閉じた硝子の瞼のように
静かな場所だった
ときおり一両だけの列車がやってきて
色のない草むらへ走っていった
やがて太陽が西に傾くと
空を吊るしている紐がほどかれて
白くてやわらかい花びらのようなものが
たくさん降りはじめるのだった
そうして気がつくと
駅も羊たちも消えていて
記憶のなかの誰もいない教室で
ぼくは列車の絵を描いていた
/
形のない列車に乗って
左から右へと動いてゆくので
右から左へ どこまでも続く
直方体の空気のかたまりが
窓から身をのりだしているぼくのからだの
表面をやわらかくして
なめらかにすべってゆく
どこへ行くというのだろうか
どこまで行っても
ぼくの瞼の内側でしかないのに
左から
右へ
列車が動いてゆくので
矩形の窓から手を伸ばし
色鉛筆で
まっすぐな線を世界に引き続けると
そのさきにはどこまでも
右から左へ
水のない海が
葉をのばすようにひろがっている
選出作品
作品 - 20150922_067_8325p
- [優] 列車 - ねむのき (2015-09)
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列車
ねむのき