選出作品

作品 - 20150810_958_8243p

  • [優]  孵化 - イヤレス芳一  (2015-08)

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孵化

  イヤレス芳一

侮辱された追憶が花瓶を割った
 赤蟻の群がる朝露の香気を嗅いで
絹の靴下を履いた氷嚢を押しつぶすように
 顔のない声が墓場の輪郭をぼんやりさせる

海洋がさざ波の底に僕を埋めた
 深い夕凪と予言のあいだで
煤けた煙突の陰影に傲慢と罪が重なり
 ぼろを纏った核心が夜に怯える

潮流に乗って旅をする片口鰯の群れを
 赤銅色の鯨が歴史をさえずり丸飲みすると
ずれた地軸の果てに悔恨と月が凍るのだろう

――忘れ去られた彗星の記憶!
 胎児がヒタヒタと朝陽の夢に溺れている時
隻眼の母は薄目を開けて古びた文字を聴いている