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作品 - 20150727_570_8213p

  • [佳]  火葬場 - 草野大悟  (2015-07)

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火葬場

  草野大悟

股関節のなかで
硬質なまるい宇宙が
つや消しの歩みとなって
冷却していた。
(恥ずかしげ、に

船賃六文
、なんて
いまどき
、ないから。
(百五十円、でどう? 船頭さん

二年まえに
牛がわたった河原
、の向こうには、

いちめんのはな、はな、はな、
花、いちめんの。
(そよぐ、せいじゃく

迎えにもこない牛をさがす煙は
すがたのない森をただよい、
空の底をぬけ、
ぐれんの炎は、
八十八年の喉仏を
ベージュ色に
灼熱する。
(うつむく言葉たちよ

腰の曲がった
煙と牛の笑い声が、
手をとりあって昇ってゆく
あかね色の風のなか、
今日も、
目覚めている
、という夢をみている。