セルロイドの曲線を数えたら二十四本の蕾で、しかしそれは造花でありました。泳ぐことを辞めた男は夜中のうちに独りになって、数十センチを溺れ、流されたような水の流れが、いっとうきれいな跡となりました。そして今朝、イェーン!(人間!)と鳴き発つ気配がしまして、見れば滓が所々に落ちていたので、起き抜けに皆は途方に暮れ玉砂利に立ち尽くして仕舞います。墓石が熱を帯びてゆくのを指差して、ああ時が過ぎるねぃ…影が早いわぁと口々に云ったあとで、山の稜線を見下ろして黙り、やさしい誰かが咳をするのです。さらに際立つ現在のそれぞれ、耳に低い気流が立ち込めて参ります。
―――本当ニ、皆、印象ダケニナルノダワ――ソレデ寧ロ濃イ影ニナルノネ――印象ダケガ生活ヲ続ケルヨウナ事ガアッテ――例エバチョウド、アノ笑顔―――春日井ノ父ガソウダッタワ――アラ小森ノ叔母サマモソウヨ―――イズレ写真ニナッタケレド―――本当ニソウネ――印象ダケガ呼応スルノネ――対話モネ、返ッテ増エタミタイデ――近頃ネ、ウチノ人ッテバ良ク笑ウノヨ――オイ、君ガ一生懸命箸デ拾ッテ呉レテイタノハ―――アリャア何ダッタッケ?――ソンナ具合ニ態ト呆ケテ笑ウノヨ―――アラ変ネィ、モウコンナニモ薄グライノネェ…
翠がかった煙のしみる瞼をおさえるハンケチを振り終える手の重なりが解かれる。砂利をまぶした木立のなかに同じ顔、同じ皺。赤い子靴がふざけて転び、ケロリと蛙は鳴いた拍子に飛び込む。ああそれ無しでは淋しすぎた道程なのです。白い足首が何回も、汚い泥をはねあげておりました。堰を切った時鐘が降る坂の途で…(蝉降る丘にてさようなら!)御影の詳細に手向けた花々…(蝉降る丘にてさようなら!)…にぎやかな団欒が宗教と往きます。ここからあなたに聴こえるでしょうか、セルロイドの弾く水は、殊勝な鈍い音がいたします。
選出作品
作品 - 20150722_476_8204p
- [優] (無題) - 町田町太 (2015-07)
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(無題)
町田町太