歌仙「初真桑」の巻 ● 現代詩組
捌 魚村晋太郎
田中宏輔
矢板進
オ
初真桑四にや断ン輪に切ン 松尾芭蕉 夏
濡れたスプーンにからむ白南風 晋太郎 夏
しぶしぶとテレビ電話に微笑みて 宏輔 雑
犬の旅出に土産をわたす 進 雑
吊革を揺らしてのぼる月の坂 晋 月秋
老いた力士とジャン・ケン・ポン 宏 秋
ウ
おとうとの通信簿を棄て原爆忌 進 秋
複眼で夕映えを見ている 晋 雑
バスルーム電気を消して向き合えば 宏 恋雑
アイデアしぼる坑夫の情婦 進 恋雑
きぬぎぬの舌の上なる糖衣錠 晋 恋雑
集団自殺はお日柄もよく 宏 雑
満月に不意のくさめをしてしまう 進 月冬
らせん小路で買った襟巻 晋 冬
つけてくるぜんまい仕掛けのビルディング 宏 雑
鳥がこぶしをにぎり囀る 進 春
花影の重みに耐える水面に 晋 花春
春の少女(おとめ)らが糞尿(くそゆばり)す 宏 春
ナオ
うららかに午後の教諭の背が伸びて 晋 春
やさしい顔の正五面体 進 雑
ムーミンも金で祖国を売買し 宏 雑
火星の中華街で飲茶を 晋 雑
なんとなく返事がしたい臍(ほぞ)のあな 進 恋雑
蛇をつつけば藪が出るのよ 宏 恋夏
箪笥という箪笥溢れる蝉時雨 晋 夏
朝の格子に楽譜うかべて 進 雑
月のごとあなたのハゲも世を照らす 宏 月秋
胡桃に潜む替玉の皺 晋 秋
うそ寒い空にはそらの真理あり 進 秋
デカルトさんも秋刀魚に飽きて 宏 秋
ナウ
未来語でしりとりをする案山子たち 晋 秋
乗り逃げされた豪華客船 進 雑
酔い痴れて瓶詰の地獄浸りおる 宏 雑
ガーゼで包む脳の右側 晋 雑
花びらの裏と表がなくなる日 進 花春
土筆かかえてアジトに向かう 宏 春
一九九九年八月一日首九月十二日満尾
選出作品
作品 - 20141101_509_7726p
- [佳] 歌仙「初真桑」の巻 ● 現代詩組 - 田中宏輔 (2014-11)
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歌仙「初真桑」の巻 ● 現代詩組
田中宏輔