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作品 - 20140929_132_7677p

  • [佳]  病室 - はらし  (2014-09)

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病室

  はらし

1.

夢は白く滲んで薄まり
窓辺には 一つの赤い花
月は大きく(夜は一面ガラス張り)透明の明かりで
この寂しさは 慰めの粉末 
それを秋の水と呑み込めば
全身に倦怠が蔓延する
秋風は 銀色の鈴の音と子供の声と
遠くを走る黒塗りバス
それらを総べる静寂とが
連鎖を紡いで この薄暗い
無機質の そして粘体の空気を
吸い込んで 飽和している
暗いインクの苦い香り

2.

乞食には耳がある
目がある口がある
皮膚が覆い尽くしている
蝙蝠傘が破れて横たわる
乞食を照らしているのは
たったひとつの街燈である

 眠りに落ちてはいけないよ
 眠りに落ちてしまえば
 (弱く銀皿が鳴る鳴る……)

眠りは影になって落ちる
だから乞食は眠らない
目は閉じているが
耳は閉じられない
すっかり人気のない街がよく聞こえる
眠りが影になって落ちれば
身体気だるく 夜の空はほのかに青光る
(まるで眠りのようだとしても)
乞食はまるで眠らない

3.

(白い朝の目覚め)
木々が喜びであるように
人々が喜びであるような
(疲れた眼は)
白い朝の目覚め