一
山が唸っている
黄花コスモスは真っ直ぐ伸びた先で開き
その蝶のような花弁を風に揺らす
その羽音が大気を破ってゆく
カーテンの隙間から手を伸ばしていた陽光は遮られ
掻き乱す雨が来る
急速に羽ばたきは閉じられ
落ちてゆく燕の夢を見ていた
翅。
水底にひかる銀細工みたいな翅
あれは夏の死骸だ
大気の割れ目からまた秋が分け入るから
空は震え身をよじる
落ちる熱が水面に赤く滲んだ
滴る指先が熱い
二
夜の波間をたくさんの魚の群れ
何処かへ泳いでゆくから
わたしは目を開けて暗いドアの隙間を見つめている
お墓の横の茂みにたったひとつだけ咲いていた薄紫の、
あれは薊だったろうか
わたしの熱がこぼれ落ちて魚になってドアの向こう側に泳いでゆくから
わたしは瞼を閉じる
身体なんて置き去りにして
わたしは魚になりたかった
花弁みたいにはらはら熱が落ちてゆくのに
ひとつまたひとつ指先から熱をわたしに預けるあなた
魚の群れを見送って
わたしはあなたの手を取った
選出作品
作品 - 20140926_108_7672p
- [佳] 此方側から。 - 綿帽子 (2014-09)
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此方側から。
綿帽子