夏至の日、仕事帰りに辿り着いた
夜の下腹
陰毛の密生するあたりへ
ずるずる
落ち込む重い河
その河を河原から見る
今日、鱗を生やした初老の女性を馘首した
水に
滞留する、我ら生ける者の恐怖が
すぐそこで暗く反射する
無音のにおいと
燃え尽きた記憶の小枝から
言葉の亀裂をなぞり
石灰色の樹形図がひた走る
ひたひた走る
健祐君と
28人のクラスメート
古い友だちが一人残らず
俯せに浮いている
29枚の
錆びたネームプレートを夜風が洗う
人の背に紫色の目玉
瞼の裏に爛れる甘い潰瘍
皺くちゃな皮膚を指で広げると
皺の谷間で虫が卵を産んでいる
夥しく排出される卵
燦然と密集する卵
半透明の粘液にくるまれ
生まれない幼虫に生えない牙がある
舟が数艘
河口の緩い悦楽をさまよっている
股を開いて棚板に坐し
眠い白目で呼びかける
(何はともあれおめでとう
よろしければ寿ぎなさい
歌いなさい
寿ぎなさい歌いなさい)
もしここに歌が流れてくるのなら
舟歌の、その旋律で
櫂も回るというものを
* * * 変更以前 * * *
夏至の日、仕事帰りに辿り着いた
夜の下腹
陰毛の密生するあたりへ
ずるずると落ち込む重い河
その河を河原から見る
今日、鱗を生やした初老の女性を馘首した
水に
滞留する、我ら生ける者の恐怖が
すぐそこで暗く反射し
無音のにおいと
燃え尽きた記憶の小枝から
言葉の亀裂をなぞり
石灰色の樹形図がひた走る
健祐君と三千子さん
耕太くんも由岐さんも
それから、それから
古い友だちが俯せに浮いている
挙げた名前を夜風が洗う
人の背に紫色の目玉
瞼の裏に爛れる甘い潰瘍
皺くちゃな時間を広げると
皺の谷間で虫が卵を産んでいる
夥しく排出される卵
燦然と密集する卵
半透明の粘液にくるまれ
生まれない幼虫に生えない牙がある
舟が数艘
河口の緩い悦楽をさまよっている
股を開いて棚板に坐し
自慰する者が呼びかける
(皆さんおめでとう
よろしければ歌いなさい)
もしここに歌が流れてくるのなら
舟歌の、その旋律で
櫂も回るというものを
選出作品
作品 - 20140721_168_7554p
- [佳] 夏至の水 - 右肩 (2014-07)
* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。
夏至の水
右肩