今まで眠ったことがなかったかのように眠かった。
黒い原野に、手紙よりも浅い膜、
とめどなく増えた蟹達が、泥を穿つ、爪先、
低い、低い、複眼の、階調に、平行する、山並みを、越えて、
マーチが流れていた、距離を細めていた。
(幻想は、払拭される余地を、いつも、少しだけ残して、そのことによって、何度でも、甦ることができる。)
床にも白壁にも、血液。寝床には、溜。
静止した細波に、三人称が、瞑る、か細い音。
回転椅子に、乗って、つぶさに、飲み込む、昏い水の、末えた、冷たさ、その、
刺戟によって、働き、やわらかな、関節のために、祈る、
石積みの、果てなき、何故、それはね。見詰め合ったまま、過ぎ、フロアを渡る。
(拡散してゆく、身体・仮説はしばしば、全能であるがごとく振る舞う。)
1993年の、月光に、晒されて、階下、
降り、積もったまま、震えそうな、廊下の、陰を、食んで、
膨らんだ、界面に、何もかも、浸した、生命があること。
観月機関が、引き裂いてゆく、風景を、押倒す、凪模様の右指、
熱は、投げかけられて、残った。
(追いつめながら、安堵しながら、翻りながら、反覆しながら、忘れ去ってそして、思いきり黙って。)
潜んだ、徴候は、ベッド脇のチェストの陰から次々と出で這い寄る。
くぐもった、躯体で問う、深々と、砂粒を残して、
均す、眉間から田園へ、移り、踊り、改行する、
白球の窓辺、月輪の複製された、原野に、
打ち上げられた、歯を拾う。
(熱と熱との、落差で世界が震える光景は、ロマンチックでなければならないと、断崖の魂は、想像するでしょう。)
リドゥ。
不可解なタスクの稜線は、たったひとつの岩窟寺院。
空の、緒を踏み、聖歌に、すさぶ、カーテンに、爪を、たてて、
並んだ、窓枠に、通れ、通ってゆけと、
あぶくを、吹きかける、兄たちの、ポテトチップスを、奪え。
(忘れるために、持ち寄って、しかし、隠し持って、出し抜こうとしている、浅ましい、物語が、どうか、始まりませんように。)
毎夜、
昨日と、明後日の分だけ、
懺悔する、明日、
演繹する、口腔に、残響する、おやすみ、
おやすみ。
(仮説は終わったことも知らずに終わる。終わりを与えられることによって終わる。)
選出作品
作品 - 20140714_023_7542p
- [優] rem - かとり (2014-07)
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rem
かとり