選出作品

作品 - 20140605_181_7479p

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君の問いに答えようと思った(この題名は君の書いた「星屑に願いを」から引用)

  明日花ちゃん

ケーキの横顔を崩そうとがしゃがしゃ音を立てながらすみずみに羽ばたいてどこでもさよならできるように。どんなときでもどんな時間でもどんな場所でもさよなら出来るように願った。もうすぐ七夕。去年の今頃はもっと何もしていない。君の問いに答えようと思った。

僕らはきっと、果たして、果たしてゆく事は出来るだろうか。僕らの後にずっと有能な人間が沢山出てくるのは、すでに当たり前だと思っている。信じる事は二つしかない小さないのちをどう使うかという話かもしれないな。君は何度でも蘇るから、何度でも殺せる様な気がして、殴り続けていたら「殺す気か」と腕を掴んでそこから今まで離そうとしない。スプーンに飯を乗っけて、零しながら貪った君が僅かに泣いても気に留める暇がないって、んならつるむなってしたたかな横顔を崩そうとした。フォークで床をプツプツ刺し、闇を広げていく。それでも感情を歪めない君の前をトラックが叫んだ。雑踏に佇んだ声が時空を動かし始めた。いつしか星が見えた。星の中にとてつもなくおっきい菱形の星があった。僕の所にも存在していた。どこから来たのかという問いに君も答えようとパクパクと口を動かしている、僕は「金星だ」と言った。金星でキノコを栽培してるンだアって。この滑舌の悪さはお国柄ですからご容赦願えましゅか。そいたら君も木星から出稼ぎに地球にやって来たらしく、同じように少し訛りがあった。(これは後に気がついた事だが、実は僕の「金星」は地球のベクトルで考えると「火星」にあたるらしく地球人の常識を連れ回し、勉強を続けていた僕にとって小さな衝撃をもたらし、また更に大きな衝撃として、君の木星と僕の金星は同い年の同じ星だったが、どういう訳か僕は表面で暮らし、君は地底でひたすら測定をしていたそうだ。)

僕は君に確か、地球レヴェルで考えた百年程前の月と火星との恋について聞き出したかったのだろうと思う。大きくて僅かな恋が失敗をする時、何かとてつもない事件が起こるらしかった。僕はもしかすると幼い頃からバカでかい恋に自分を重ねたがる気質があったのかもしれない。地球人で言うと、「夢見る夢子ちゃん」だとかそんな風にされて、長い間閉じ込められた。事件とは地球にとっても僕らの金星にとっても重要な戒めのように見えた。歴史を辿ると地球人が宇宙人を恐れた時、人間界カンペキな空想、現実味のない信仰は、足元にスッ転がり、泥靴に批難を浴び、抹消されたのだとある金星人は話していた。地球人は地球において、「地球らしくない事をした」と言っても過言ではなかった。僕は地球人が嫌いな訳ではない。いや。むしろ地球人に対して尊敬の念もあった。地球には美味いものが沢山ある事も、様々な文化が存在している事も、金星雑誌第一号「「放送禁止!無様な金星!最も有能な星とは。」」にデカデカと紹介されていたし、地球は僕の夢でもあった。地球に行って地球人と恋に落ちること。地球年齢22歳、まだ叶えきれていない外国出身の僕だけれども、そろそろ地球人から国籍を変えたとのお許しが欲しいと思っている。君も出稼ぎではるばる金星から地球に来て、まず困ったのは融通がまるで利かない寂れた土地が故に、職が決まるまで二週間程の路上生活を余儀なくされ、ホーム(家が)レス(〜ない)と呼ばれる人々に酒やパンを頂いていたらしい。申し訳ないと話しながら、服さえ着ていない日々から復活するのだから目覚ましいことだよ。と僕らは酒屋で讃え合った。僕はこの裸さえも一つの洋服だと感じているけれど、君もそうだろうか。裸の王様は知っているかな。そう。透明の服を着込んでいる土星人の話だよ。この服をいずれ脱ぐ事が出来れば屈伏せずとも良いのではないかと感じてしまうよね。僕と君の地球に来る意味合いは違っていたかもしれない。君は生きるために来ていた。僕も、もちろんそうだ。けれども本質的な目的は失っていなかった。僕はいつだって恋をしたい。月と火星が本当に恋をしていたらいいと思い続けていた。君に出会う前、僕にとって星達が目指す恋はきっと華やかに輝き、美しいものだと感じていた。地球人なんて特にロマンチックに出来ている事だろう。美しい言葉で文字を繋いだり、手を絡めるヴァリエーションも豊富に見えた。地球にやってきた15年後の夏、ぼうっと暗がりで遠い国を見て、あらゆる考えをさかのぼった。離ればなれに浮いた星達を、僕の隣で父親だと言い張る人間が寝そべって何かしていた。指先で星の線を描きながら折り曲げて、たった一つの輪っかになる。「ほら。よく見なさい。」「ここと、ここ。」「ここと、ここだ。」ってずっと。僕は君の問いに答えようとしていた。いつも。君と出会う前から。もしかすると一番星も二番星も変わらないんじゃないかっていっこの命としては。繋がった時に意味が出てくるんじゃない。答えを準備して待っていた身体から分厚い衣をもぎ取ったら、君よりも大きな凹凸が僕に存在して、また君のように、脚にある太いコード線が表面上からひとすべも見えない僕の入れ物を大声で笑いながら、「とても変だ」と言っていた。つられて僕も可笑しかったので、そうした。向いてないね。ちゃんとした服に着替えてコーヒーを淹れたら喜んで飲んでくれた。君が地球人の中で特に気になっていた「黒人」と呼ばれる幾つかの人々の名前を僕も知っていたからその事について話した。僕の好きなテニスプレイヤーにモンフィスっていう人がいるんだ。僕にとって彼はファンタジスタでね…黒人のアイデンティティは今どの段階に存在しているだろう。彼らの主張はまさに金星人の嘆きだよ。明るくて希望もあり、楽しそうに振る舞い、自分たちが素晴らしいことを本能的に知っていそうだ。未来にかけて話してみたいな、君はどう思うの。…不思議なことを言うね。さすが天才の星から来ているだけのことはあるよ。僕もその考えに全面的に賛成すると思う。秘密調査だ。まるで…うん。コーヒー、すごく美味しいね。

何かの脈絡に苦さを染み込ませながら、君がポトリと地球で過ごした月日を一通り話し終えた時、空気が金星にいる様な懐かしさを覚えた。僕らは本当に同じ星で地球人の知らない金星人で。僕はその時地球人の事なんてこれっぽっちも知りたくないと思った。悲しかった日に、涙が出ることしか。嬉しかった日にも、同じように水が溢れて落っこちるのだけれど、とてつもなくしょっぱくなることを知っていればそれで良かった。君が「星屑に願いを」を書いた夏、地球の人生にしょっぱさを感じていたことくらい。僕は何もしていない体たらくさ。っていつも言いたかったよ。金星人にとっての優しさをちゃんと理解しながら誰かと誰かは見えない恋をしていただろうか。僕も金星人として地球に住む事が出来たらいいのに。こんな風に笑えるなんて考えたこともなかった。金星にいた記憶は旅をしている時、殆ど他人にあげてしまったという君の眼を見ながら、月と火星の恋について話した。そうしたら君は「失敗したと思う」と答えた。その後君が放った言葉は「恋は成功が失敗だろう」だった。

僕らが願うのは故郷に帰ることなのか。それか、僕らの知っている場所にとてつもなく近くてとてつもなく遠い場所に行く事だろうか。時空でもいい。探し続けてもいい。いつだって僕らは瞬間を破壊したかった。時計をいくら壊しても終わりが来るかもしれない、僕の行く所は決められて、操作されながら流れていく。妥協を繰り返しながら、死んでいく。さよならしても、あれは僕が僕自身にしていたさよならに似ている。君の後ろに僕を残して。進んで、この前の事さえ忘れていく。僕らの知っている遠い昔の話を君は断片的に思い出して、冷たい肌に落っこちているのかも知れなかった。あの月と火星は、確かに恋をしていたはずで、抱き合おうとしたに違いない。抱き合おうとして近づいた。けれども、生きる方を選んだんだ。お互いが想い続ける、そっちの方がいいだろうと、我がままにしなかった。本当は誰よりも抱き合いたかったらしい。誰かが言っていたよ。あの人は私を愛していなかったのか、って。衝突する日は失敗する日。月が火星に、もしくは火星が月に、願った事は何だったの。きっと帰りたかったに違いないよ見えない何処かに。誰も知らない場所。夜や昼でもない、ふたつぼっちの。もうすぐ七夕だね。僕が死んだ時、または君がいなくなった日を、食い止めることって出来ないのかな。織り姫と彦星も、月と火星の恋を夢見ていた。僕らと同じように。かぐや姫が月に帰った時からずっと見届けた僕らが続いている。僕らは繋がっている。どこかで繋がっている。繋がっていたい僕らだって君と。昔から未来に向けて繋がろうとしたい。誰かが崩して切り分けても。僕の金星人、さいならだよ。愛しているよ。夢はとても小さかった。君と離ればなれになりたくない。せめて気持ちだけはこのままずっと一緒にいれますように。このまま愛する事が出来ますように。笑い合えて、僕らが小さくなってもずっと心抱きしめていれますように。僕らじゃなくてもいい。誰かがそうなれますように。何処かで愛と愛が繋がれていますように。愛で幸せになれますように。願い続けて折れた腕の中で僕は寝ていた。寝ながら呟いていた。僕が知っている何かと、君が知られている何かの話を誰も知らない所ですればいいよ。ねえ君。もしくは君に似た恋人。僕らは愛し合っているのだろうか。さようならをしないで欲しかった。嘘じゃないかって、君を見た。金星で会えるだろうか。地球人の君は何処かに連れて行かれそうで、腕にしがみつきながら行き先を聞いたよ。まだこの詩は生きているでしょう。よく見なさい。ここと、ここ。ここと、ここだ。お願いだから捨てないで。僕たちはどこに行くの。病院に行くのは可笑しいでしょう。聞いてよ、地球人。目を覚ませ。ばか、連れてくな。もしもし。もしもし。金星より。音声はそこで途切れた。