選出作品

作品 - 20140506_863_7439p

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今日を、捧ぐ

  エルク

花糸に彩られ
色彩が季節を巡る
ほつれていく
糸を辿って
渡り鳥は
花から 花へ 渡る
あらゆる色素を失った
あらゆる解釈を失った
あらゆる意味を失った
あらゆる構造を失った
そして
春を引き連れ
巡るようにして
光がまわっていた



眩しい、と感じた次の瞬間には消えてしまう、それは夜明け前の夢。少女の幻影。ピルエットの奥行き。壁の半分以上を占める窓の、右端から左端へ根を張るように横切っていた枝の先端は生き続けていた。消し忘れたままのテレビの画面には色とりどりの花が映し出されていて、きっとその根もとには美しい人が眠っていると思っていた。光がまわっていた。目を閉じても、逸らしても、まとわりつくように飛びまわっている。 (ときに旧友、ときに恋人のように。) 骨が色づくのは金属に反応するからだという。骨の量は身長とは関係ないという。湿気で重みを増した葉が落ちてその寿命を終えたとき一滴の朝露が乾いた地面に落ちる。トゥシューズの叫びは無視されて脱ぎ捨てることさえ許されなかった。濡れることのないまま、少女はまわっていた。雨粒の落ちる先は気圧や気温、湿度の中ではじめから決まっているという。それは奇跡だよ、と誰かが言った。奇跡だ、と叫ばれたピルエットで少女はまわっている。世界は少女の遠心力で支えられていた。少女の夢を軸にした周期運動で世界は時間を正確に刻む。少女を歯車にしてまわる世界の構造はトゥシューズの叫びそのものだった。やがて静止してしまうその時まで、少女はまわり続けていた。奇跡が起こり続けている午後の真ん中で、濡れる世界を包むようにして、光がまわっていた。 (ときに美しく、ときに少女のように。)



ふっくらとした (おとといの) 落下 (休眠)
ぬれた     (きのうの) 反映 (感光)
めざめる    (けさの) 回転 (息吹)
霧吹きから
(けさときのうとおとといが)
勢いよく飛び出して
(ひとつになったきょうたちが)
葉先にあつまる
(あすをゆめみたきょうたちが)
次々に
水面へ飛び込んでいく



完璧な、と訳された月曜の午後。日付のない日記。破られた詩集のあとがきでは美しい修飾語で世界が語られていた。読まれることのなかった水辺が穏やかに果てる事象の意味。なんと表現すればいいのだろう。ランタンが灯りを吐き出す。あなたはいないはずなのに。ハミングを、許して。以前にもこんなことがあったような。さよならと、おやすみ、をつたえるわずかの間。光を絞る指。雲の陰影。見知らぬ土地が燃えています。



変色した葉が深く裂け
側面からみた断面
水滴を滲ませる
分厚い心皮
分岐する
多幸感



新葉の背に浮かぶ大小無数の水滴のなか、まどろむ朝陽がゆっくりと目を覚ます。つ、と葉脈に沿って流れるひと粒の水滴が、今朝、そして昨日や一昨日を、取り込みながら勢いを増して垂直に落ちていく。こぞって葉先を目指す朝陽たち。これらはきっと、迎えられることのなかった今日たちなんだ。根から吸い上げられた今日たちが効率よく全身へ送り出されるその途中、道管と師管をよどみなく通り抜けるためのアーキテクチャ、葉の全身へと送り出される出力シュミレート、夜明けが伝達していく、



葉の裏側で、(目覚めて、) ふたたび、(眠る、) 壁の半分以上を占めていた窓の、右端から左端へ、渡り鳥の群れが次々に映り込んでいく、彼らは水滴を避け続ける、事象の意味、燃えるようにして咲く花の下では美しい人が眠っていて、眠っているはずなのに、それをうまく訳せない、完璧な、と訳されていた月曜の午後、読まれることのなかったわずかの間に、いつまでも見知らぬ、見知らぬ水辺が、(燃えています、)