逆上がりができない子どもだった。公園のワカメみたいな苔が嫌いで日当たりの
いい場所ばかりを選んで遊んだ。砂場を掘って、限界まで掘りすすめて、無くし
たビー玉。スコップでアリの侵入口をふさぐ。要塞のようなゴンドラを四人がか
りで漕ぎだして、赤錆びた接合部の上げる悲鳴に不安をおぼえた。
道ばた。わずかにすすむ日のかげ。通りすがりに引きむしる草の根は固く、水場
をさがすカマキリが渇いた空き地を駆けまわる。資材置き場でガラクタを踏み越
え、重機とモルタルのあいだ、しずかに、鬼の追跡をやり過ごした。押し殺して
いる息の白さ。でも背中には汗がにじんでいて、きっともう春なのだろう。
(春が徒党をくんでやってくる)
グラウンドをめぐる木々も真新しさを装い、ランドセルは歩く背中より大きい。
チャイムがはきだす色とりどりの喚声の中に、泣きだす声や簀の子を打つ靴音も
聴こえる。遠目からであればなおさら、垂直にのびるフェンス。鳥が身体を休め
るように、木の実を摘んだり、かかった羽根を落としたり。
指をかけて弾く。的の一点に狙いをさだめて、力んだ。緩やかなボールは空中に
ぬけて、走りだす。息を切らしても足をとめず。身体は勝手に動いてくれるから、
知らないことも知っている、ふり。ひかりの帯がこんなにも下りてくる、晴れわ
たった空だった。成長に合わせて服を着て(やはり少しだけ大きい)。
選出作品
作品 - 20140430_689_7425p
- [優] 交遊記 - 夢野メチタ (2014-04)
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交遊記
夢野メチタ