選出作品

作品 - 20140301_869_7332p

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取材メモ 2013

  むじな

「実家の部屋」
Sさんは実家を出て一人暮らしをしている。
彼はオタクで、実家で使っていた部屋には、いまも雑誌やビデオのコレクションを大量に置いてある。
ある日、実家から「すぐに帰ってきてくれ」と電話があった。
実家に戻ると、とにかく部屋に行けという。
理由も分からずに自分の部屋に連れて行かれた。
「あけてくれ」
両親に言われるままにふすまを開けようとしたが、なぜか開かない。
むりやり開けようと力を入れると、わずかに開いたすき間に老人の顔が見えた。
むこう側から、知らない老人が凄い形相でふすまを押さえている。
三人がかりで強引に開けて、突入した。
その瞬間、部屋の床が抜けて、家の二階が崩れた。

「セーラームーンにもらった」
四、五歳のころの話。
自分は覚えていないが、家族から聞いた話。
キャンプに行ったとき、急に自分の姿が見えなくなった。
日暮れが近くなり、みんなで必死に探していると、自分が突然、森の奥から走って現われた。
それを見て母親は悲鳴を上げた。
娘が満面の笑みで、何か動物の内臓のようなものを両手いっぱいに抱えていたからだ。
どうしたのかと聞くと、「セーラームーンにもらった」と答えたという。
どうやら自分には、その内臓がアクセサリーや宝石に見えていたようだ。
家族にそれを取られると思って必死に抵抗したらしいが、それも記憶にはない。

「おんぶ」
Nさんはおばあちゃん子だった。
入社式直前におばあちゃんが亡くなり、楽しみにしていた晴れ姿を見せられなかった。
入社式の日、社員のTさんが彼を見て「君!」と慌てた。
なんですかと言うと、急にしどろもどろになって「あ、いや、すまん。なんでもない」と言った。
それから数年後。
Tさんが他の支店に移動することになり、部署内で送別会があった。
その席でのこと。
「実は、君には話そうと思って、ずっと話せなかったことがあるんだ」
Tさんは声をひそめて言った。
「君が入社式の日、背中におばあさんを背負ってきたように見えて、本当にびっくりしたよ。あれ、いったいなんだったんだろうな」

「あんまの話」
私、人には言う必要もないので、あまり言わないんですが、全盲ではないんです。
だから、見えてたんです。そのお宅の息子さんに、尻尾が生えてるの。
ちょろんとした、指の長さくらいの。

「鳥かごの話」
シャッター通りの鳥かごが、たまにガタガタと揺れる。
ひと筋となりの商店街で惣菜を売っているが、たまに客から「昔、あそこにはオウムがいて、それを懐かしんでいるように思えるねえ」と言われる。
テンプラ屋さんが飼っていたものだが、その鳥かごはもう、ずっと昔にない。

「前かけ」
酒に酔った若者の集団。
そのうちの一人が、地蔵の赤い前かけをふざけて取り、自分の首にかけた。
別の若者が注意してすぐに元に戻したが、その後、ふざけた若者の鼻から血が止まらなくなった。ティッシュで押さえても止まらない。
ようやく止まったころには、彼のTシャツの襟元は、血で真っ赤になっていた。
まるで地蔵のまえかけのような形だった。

「よりこさんいますか」
男の声で「よりこさんいますか」と電話がかかってくる。
最初は「間違いですよ」と丁寧に断っていたが、あまりにも頻繁にかかってくるので、
ある時、
「よりこって誰だよ!」
と怒鳴ってしまった。
すると、受話器のむこうで、
「よ、よりこは私ですが……」
と、弱々しい女性の声がした。
怖くなって何も言わずに受話器を置いた。

「青い蛾」
Tさんは幼稚園のころ、大きな青いガを見た。
手のひら二つ分はある巨大なガ。
この話をするとみんな「夢でも見たんじゃないの?」と言うが、その時のスケッチブックが今も残っている。
ある時、用事で実家に戻った時、押入れから当時のものをしまいこんだダンボールが出てきた。
そこには確かにスケッチブックがあり、青いガの絵も確かにあった。
が、そこには記憶にないものもあった。
おそらく幼稚園の先生が書いたと思われる、赤い文字の文章。
内容を要約すると、どうやら自分は友達の首を絞めて殺しかけたらしい。そのことを注意する母親向けの厳しい内容だった。
Tさんが幼稚園で首を絞める遊びを提案して、広めたのだという。

「無音」
映像関係の会社で働いている。
ある場所でビデオ撮影をしたときのこと。
後日、編集しようとビデオを見ていたら、ところどころプツプツと音が途切れている。
「どうすんだよ。これじゃあ使えないよ」
音声トラックを確認すると、その場所で撮影した部分にだけ、よくわからない無音部分がある。
首を捻っていると、同僚が、その無音部分に規則性があるのでは、と言い出した。
「これ、モールス信号じゃないですか?」
半信半疑で解読できるか試してみると、それは確かにモールス信号だった。
「まだいきている」
「ここにいる」
「たすけてくれ」
そういったことが、何度も繰り返されていた。