魚よりも虫に近い生き物だと知ってかなしんだ、君の背わたをぬいて食べ
ます。これ、いつまで泣いておるんじゃ。わしだって同じ気持ちだ。同じ
気持ちだよ。ミラー。ミラーの中に映る自分。おおきく息を吸いこんで、
吐いて、吸いこんで、吐いて。吸いこんで。背中で語る、わたしの予想の
ななめ後ろで洗濯機が産声を上げて、ほつれたボタンがからからと鳴った
。からから。からから。からから。
共振するラッセル音に合わせておどるサッカーボールです。かたい握りこ
ぶし大のヘリコプターが風を切ってすすむ。肩で息をして、そのまま。放
さないで。足のつかない対岸に置き去りにされたらどんな気持ちだって。
一本の棒になりなさい。そして、マニュアリストとして生きるのです。ふ
み切った抑留がつま先をつたう。サッシに挟まった苦い虫。あざやかな、
サルミアッキ。
すすむったらないって櫛でならしたじゅう毛と、仕切られた側からめぐら
す視線。もしも世界が120パーセントの勾配だったとしたら、いったい
何人が地に足をつけて立っていられるんだい。真剣な顔で傾いでいる彼が
おもむろに立ちあがると、突き立った木杭めがけてむんずとその長柄を。
掃除、洗濯、そのあいだに、まるで昔からの決まりみたいにつめたい水に
唇を噛みしめる。悔しくて、悔しくて。漢字とてにをはは新聞読んで覚え
ました。いずれは中国語や英語にも挑戦し、ヒンドゥー語とウルドゥー語
を、あれ?
隣家の戸板かち割って米びつ漁るうつけもん懲らしめるため開発されたん
が、電子釜やった。科学の発展には犠牲が漬け物や。博士は自論を証明し
ようと自ら戦地におもむき、カカオに撃たれて死んだ。かかるチョコスロ
バキアの国境では今も攪拌機を手に立ちつくす男たちが前掛けを黒く汚し
ている。甘いだけじゃだめだ、甘いだけじゃだめだ。焼けただれたバター
の匂いが一帯に満ちて、
ジェイミー、2本だけ火をつけて。
でもまだ食べちゃダメ。ちゃんと歌をうたってからよ。
ママの焼いたミートローフがなかよく切り分けられてみんなのお皿にのせ
られたちょうどそのとき、付け合わせのマッシュポテトは、俺も映画みた
いな恋がしたい、そう思った。彼のまわりには幼なじみのにんじん、彩り
のレタス、地中海産ブロッコリーが肩をよせて並んでいたが、畑で生まれ
た俺たちが、またぞろ家庭菜園みたいな格好で食卓に花を咲かせている、
うんめいのふしぎなめぐりあわせに、すっかり毒気をぬかれた様子だ。そ
の横では、ちゃんと山盛りのスパゲティがやわらかな湯気を立てて一家の
食欲を刺激しているし、卓の中央、ジェイミーがろうそくを灯した特大の
ホールケーキはケミカルなつゆくさ色で、子どもたちの目を輝かせるには
充分だった。坊やはどのドレッシングがお好みかな? ランチか、イタリ
アンか、それとも……アンド・チーズ! 今日は妹の誕生日だけど、ごち
そうを前に誰よりも楽しめるのは自分なんだとジェイミーは、言わぬばか
りにジェイミーは、興奮した高い声で答えた。そして、こうも思った。今
日がこんなごちそうなら、半年後のぼくの誕生日には、もっとずっとすご
いごちそうとプレゼントが待っているにちがいない……! たまらずジェ
イミーは、いてもたってもいられず、早口言葉よりも早いそそり声で訊い
てみるんだけど、
来年のことを言うと鬼が笑うよって母さんが笑った。
*
少し弱気になっていた
急行の連絡待ちを告げるホームの片側で、ひと月ぶりの声に安心している
元気にしているか、
受話器のむこうに耳をすませば、
ほらこんなに、
聞こえてくる戦隊ヒーローのかけ声が自然と顔をほころばせた
今日は公園に行ったと言う
砂場でどろ団子を作って、アヒルの遊具に食べさせた
3合炊いても足りないくらい、口いっぱいに頬張るの
そうやって日々いろんなものをつめこみながら存在を拡大させていくもの
やわらかな頬が会いたいと、言っている
来年なんて見えないけれど
子どもの成長していく姿だけはありありと思い描くことが
できた!
欠けていたピースに可能性をはめこんだらそれっぽくなってしまい、探す
手間がはぶけたような休日の午後に、一杯の紅茶と読みかけのページのし
おりをはさんで、日が西に傾こうとしている窓のむこうでは、買い物に出
かける人の背中や、忘れられた洗濯物がはたはたと夕日の色を取り込んで
、ありふれた街の景色を作っていた。今日のいい日を誰より永く掴んでい
たい。煙草をつまんで深く息を吐き出すと、ふいに誰かに同意を求めたく
なったんで、とりあえず笑ってみた。
寒いから閉めなよ。
白い煙は寒空をおよいで、言葉も一緒に飲み込んでいく。
選出作品
作品 - 20131230_702_7214p
- [優] symbol - 夢野メチタ (2013-12)
* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。
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夢野メチタ