選出作品

作品 - 20131118_078_7141p

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てのひらの秋

  夢野メチタ

(一)
秋、ゆらぎゆらいで定型にする、赤、一枚の花弁とひだる
息、野放しに、こおろぎと分け合いする左手をささげ
折り曲げた体躯から砂の、香ばしく明けそめる山の赤に
秋の道ゆらいで天高く空が落ちる、ゆれる、そよいでゆらぐ



声それて刈り入れられた、乾いて深くつごもる稲田、ほどけ
声をころし落ち穂のように伏せり、えにし、髪のにおいがなじむ
藁、あかりを食む間もなく、むしろを編む人のこより手を好む
肥える秋、左手に重ね、秋の虫のむしろ場にさしだす

秋ゆらいゆらぎって、たえに咲く花の昼にしに赤色をそそぐ
熟した木の実に洗い、むくろじの羽根をついて遊ぶ
息、野放しにあがり、さやいだ風に秋を感じる、手のひらに糸
道ゆらぎって持ちかえる夕、静けさ、さやいで弱弱しく握る

山田の、畦の、家路にむかう子供たちの足元、秋、ゆらぎゆらいで
暮れなずむすべての秋に
秋と言ってやりたい

(二)
おはよう、何度もあくびを噛みころす朝
こわばった心音が指先に伝わりすべり落ちた
道ばたで出会った猫と一夜をあかして、花をつむ
水色の、ひかりにとけて淡い

それからまた少しねむって

手向けた鶴が飛び立つのを待つあいだ
峠をわたる馬車がいくつもの秋をのせてやってきた
幌の中身をひとめ見ようと首をのばして立ちつくす、子供は見えない
馭者のくたびれた背中が遠くなる

「たおねずみが水路を駈けて逃げてくよ」
「捕まえようか」
「もう少し様子を見ていよう」
「なんだか空がくもってきたわ」
「躯は痛みますか」
「土がやわらかいから平気です」
「いま雨つぶが落ちてきた」
「車輪のあとを濡らしたね」
「いつまでも同じ姿勢で横たわっている」
「それにしても小さくみすぼらしい足あとだ」

雲が、雲を食む、空のすきま
いつしか周りには同じような猫が一匹、二匹、三匹と増えている
刈りたての稲の匂いにまぎれて、ごろごろと喉を鳴らしながら
何度も顔をぬぐう、ひなたの中で
幼い爪どうしが掻きあって衣ずれ、ほつれた糸が草むらにたゆんだ

三叉路のくぼみにのせた手のひらがなぞる
見えない足あとが延々と踏み固められた道につづく
農夫たちは寂しくなった土をおこして、おこして
深まっていくまぶたの裏に、歩いてどこまでも、振り返らない

それからまた少しねむって

花びらをつまみ、それを水にうかべて
ゆらゆらと梢がそよぐ透き通った点描の中で
沈むでもなく飛ばされるのでもなく、ただゆっくりと
流れにそって旋回していく様を見ていた

(三)
今日のわたしのお昼はてんぷら、てんぷら、てんぷらをたべるよ
「いなげや」でだいこん買っておろし金でおろす
お椀の中にかつおだし
しょう油を切らしたね かなしいねって

すりがらすの向こう側 日曜日がふっている
指で弾いてかき鳴らす 高いつめ切りの音も
緩しょう材が安いから 全部つつぬけなんだ
見えなくっておかしい お腹抱えて笑ったね

ふっとう

手のひら、かざしたらとても薄くて
大事に握ってたさいばし落としてしまった

手のひら、うれしそうに咲いていた折り紙の花 置いたまま
秋がきて もう、季節はずれになってしまった