●それでは●明日のあっくんの「意味予報」をお送りいたします●明日は●午前中ずっと意味が明瞭ですが●昼ごろから晦渋となり●午後から夕方にかけて●ときどき意味不明となるでしょう●夜は●明後日の未明まで●何を言っているのかまったく不明なだけではなく●それが言葉であるのかそうでないのかすらわからないことになるでしょう●なお●明後日から一週間は●原因不明の昏睡状態がつづくものと予想されますが●ときどきは意味のある言葉を口にすることもあるかもしれません●よく注意して耳を傾ければ●言及される箇所によっては●意味の通じるところもあるでしょう●それでは●ひきつづき●来週のあっくんの「意味予報」を放送いたします●ウピウプウピピ●ピリピュラリィー●ウリウリウリリリ●ウリトゥララ●ププププププ●チュリチュララ●チュリ●チュリ●チュリリ●プピ●プペ●プぺペー●プピ●プペペペー●ペッ●ペエエエエエー●ペッ●えっ●ミツバチがスズメバチに襲われている●やっつけられている●ミツバチがスズメバチに襲われている●詩人は漆黒の牛が青い花をくわえながら微笑んでいる●詩人は死んだ赤いエイのちいさな唇でプツプツと泡を吹く●ミツバチがスズメバチに襲われている●縁飾りではなくて●花綱●じゅんちゃん●ぼくの手を離すな●大山のふもとでは●高校生のじゅんちゃんと●ぼくが●鉄棒のそばで休んでる●樹の影に●ぼくはしゃがんで●じゅんちゃんは立っていた●ぼくたちは向かい合って●漆黒の牛は青い花をくわえて微笑んでいた●黄色い鶏が大空を飛んでいた●巨大な脚を●オイチニ●オイチニ●詩人は死んだ赤いエイのちいさな唇でプツプツと泡を吹く●オイチニ●オイチニ●ぼくたちは向かい合って●漆黒の牛は青い花をくわえて微笑んでいた●オイチニ●オイチニ●おまえの母ちゃんに言ってやろ●ふだん●あたちは●こんな下品な言葉づかいはしませんけど●笑●おまえの母ちゃんに言ってやろ●若メガネデブだった●鳥取には●ぼくも一度だけ行ったことがあるよ●学生時代にね●二十年以上も前のこと●大きい山って書いて●だいせんって読むんだよね●言うんだよ●かな●笑●まだ二十歳前だっていうのに●おまえは髪が薄かった●笑●すぐに二十歳になったけど●笑●きっと神さまへのお祈りがヘタだったんだろ●おまえの母ちゃんに言ってやろ●もうおまえはバカだし●ハゲだし●どうしようもないデブだったね●でも●それって遺伝かもね●いや●きっと遺伝だよ●おまえの母ちゃんも●ぜったいバカで●デブだったんだよねえ●まあ●おいらは●バカでデブのおまえが好きだったんだけど●笑●漆黒の牛が青い花をくわえて微笑んでいた●緑のきれいな大山のふもと●若メガネデブのおまえが通っていた高校の教室に●おいらもいっしょに坐っていたかった●痛かったのは●二十歳のおいらの肖像●おまえとめぐり合った●ハッチのおいらの映像●爆泣●笑●おまえの母ちゃんに言ってやろ●過ちは一度だけだったって●おまえとは●笑●漆黒の牛は青い花をくわえて微笑んでいた●ぼくは間違っていた●交換する●それは同化ではない●交換することは同化することではない●ぼくは間違っていた●青い花の縁飾り●白い皿の上●漆黒の牛は微笑んでいた●ぼくは間違っていた●青い花をくわえた漆黒の牛が微笑んでいる●交換する●それは同化ではない●しかし●いかなる存在も●他の存在といささかも同化することなしに存在することはできない●ぼくは二十歳だった●だれよりもかわいい●ぼくは二十歳だった●漆黒の牛がむしゃむしゃ●漆黒の牛をむしゃむしゃ●ぼくの喉を通る漆黒の牛の微笑み●青い花をくわえて●むしゃむしゃ●二十歳のぼくは●青い花をくわえてむしゃむしゃ●憶えてる●憶えた●憶えてる●憶えた●漆黒の牛は青い花をくわえて微笑んでいた●時間の指を●ぼくの目のなかでぐるぐる●交換する●それは同化ではない●どんぞ●そこんとこ●よろしく●笑●去勢された漆黒の牛が青い花をくわえて微笑んでいる●去勢された漆黒の牛が青い花をくわえて微笑んでいた●もっと●ぼくと愛し合おう●去勢された漆黒の牛は●あの夏の晩に青い花をくわえて微笑んでいた●ぼくときみが信じ合ったあの二十歳の夏の晩をむしゃむしゃ●ぼくじゃなきゃいやだ●あの二十歳の夏の晩じゃなきゃいやだ●青い花をむしゃむしゃ●ぼくときみをむしゃむしゃ●二十歳の夏のぼくたち●青い花がむしゃむしゃ●笑ってたあの夏の晩に●ぼくときみが信じ合ったあの二十歳の夏の晩に●一頭の若い牛が青い花をくわえて●ぼくたちを微笑んでいた●あの二十歳の夏の晩に●青い花がむしゃむしゃ●青い花はむにゃむにゃ●OK●知恵ちゃんは●牛乳瓶のふただった●紙でできた●真んまるい●目と目を交換する●意味ないじゃん●ほんとに●漣●むつかしい漢字だな●さざ波●きれいだよね●こっちのほうが●りっぷる・まーく●知恵ちゃんは●牛乳瓶の紙でできたふただった●そだよねええ●ふふん●ぼくのなかに知恵ちゃんがいて●怪獣のなかにぼくがいる●別の怪獣のなかに●その怪獣がいて●また別の怪獣のなかに●ぼくのいる怪獣がいて●またまた別の怪獣のなかにぼくのいる怪獣のいる怪獣がいて●そんなことが●毎日毎日繰り返し●ぼくの帰り道にあって●帰り道に●お風呂屋さんがあって●そのお風呂屋さんちの娘が同級生だったのだけれど●知恵遅れだった●名前が知恵ちゃんだったから●知恵遅れだったのかもしれない●同級生たちは●その子のことを●よく●バカ●と言ってからかっていた●牛のように太った身体の大きい知恵ちゃんは●でも●ふつうの人間のように見えることもあった●しゃべると知恵ちゃんは知恵ちゃんだったけど●だまって●ぼーっとしていると●ふつうの●だまってぼーっとしている同級生と変わらなかった●怪獣のなかにぼくがいて●その怪獣は別の怪獣のなかにいて●その怪獣はまたまた別の怪獣のなかにいて●ぼくは中心で●怪獣を操縦している●眺めはきれい●見下ろしてみると●知恵ちゃんは●ずっと小さい●指でつまんで●放り投げた●ぼくのようなものの見方をしたかったら●ぼくの目の缶詰を開けて食べればいいんだよ●ぼくのような言葉の音の出し方をしたかったら●ぼくの耳の缶詰を開けて食べればいいんだよ●ぼくのようにかわいらしいしゃべり方をしたかったら●ぼくの口の缶詰を開けて食べればいいんだよ●プンプン●うちゃ●くちゃ●うちゃ●くちゃ●どうも●どうも●びびび●ビン詰め●ナポレオン●ビンのなかでは●ナポレオンも腐っちゃってますぅ●あまりにながい年月でね●腐っちゃってるのは●ぼくのパパの缶詰もそうかもしんない●パパの缶詰を開けようと思って●パパの缶詰を手にとって●賞味期限を見たら●切れてたの●ブフッ●パパの缶詰に賞味期限があるなんて●知らなかったわ●でも●決定的に間違っていたのは●パパの缶詰を開けるためには●パパの缶詰を開ける缶切りの缶詰を開けなきゃならなかったの●ブフッ●歯で開けようとして●血まみれになっちゃったわ●見守ってね●うっ●はっ●とろ〜り●とけてる●パパの缶詰●傾ければ●腐ったパパがゆっくり流れ出す●見守ってね●うっ●はっ●ぼくの舌の上で●ハエが翅を擦り合わせる●風は涼しい●目も●でも●ブフッ●腐ったパパが扉をノックする●きらきらときらめく●死んだハエの目の輝きだ●ぼくはときおり●自分の顔や手の甲に雨粒が落ちてくるのを感じることがあった●雨などちっとも降ってはいなかったのだけれど●ぴったしの大きさのパズルだった●ぴったしの大きさだったからこそ●さいごのピースが●はまらなかった●自分の日記を読み返してみると思わず吹き出しちゃって●80年代ポップスってやっぱりいいな●鏡に映った自分の顔は好きじゃないけど●雨ざらしの軒先に落ちてる封筒のなかに入った自分の魂を覗き込むのは好きでさ●で●んで●で●んで●んで・でえ・え・おお●ウィガダ・メカ・ラ●タラララララー●チッ●イエィ●イズ・イットゥ・ヨオ・カラー●先日は●あなたがお亡くなりになられまして●まことにありがとうございました●生前は●なにかと●ひとさまの悪口ばかり口にされまして●ほんとうに迷惑な方でした●とくに弱者に対してはそうでありましたし●ご自分にさからえない者に対しては●めっぽう強い態度に出てらして●ねちねちねちねちと意地悪をなさいましたね●わたくしは●こころ善良な者でしたから●あなたさまのご意向とご行為が●はじめのうち●まったくわかりませんでした●まあ●それは●わたくしだけではなく●善良でもない●あなたの周りにいる方たちも●おそらく●そう思ってらっしゃったことでしょう●つきましては●あなたの生前の仕打ちに対して●わたしの知り合いに●つぎのような提案をいたしますので●ご了承ください●あなたが生前に他人に送りつけたあなたのすべての詩集を●ゴミ箱に入れて●ゴミの日にゴミ出しに出すということを●あなたの生前に●あなたに面と向かって●直接●あなたの作品などゴミだと言った者はいませんでしたが●はっきり言って●ゴミでした●先日は●お亡くなりになられて●ほんとうにありがとうございました●こころから感謝いたします●ばればれ●自我の拡大●群衆心理も個人の自我の重ね合わせと考えれば合理的だい●いえぃ●おつむの悪い連中が●何人かいっしょにいてむにゃむにゃしてたら●賢い気になってるのも●そりゃそうだ●自我が拡大してるんだから●そりゃ気が大きくなるわな●バカのくせにね●いや●バカだからかな●ブフッ●警官や刑務官といった連中のこと●笑えないよねえ●そりゃ●おまえもバカだしぃ●おいらもバカだしぃ●ハー●コリャコリャ●ビジーな羊は●真っ赤なハートマーク●群衆心理もエンヤコラ●ビジーな羊は●真っ赤なハートマーク●きゃっ●場の共有理論で●自我の拡大を群衆心理にまで適用して考察することができる●おまえもバカだしぃ●おいらもバカだしぃ●笑●イエィ●ぼくのビジーな羊にご挨拶●ぼくのビジーな羊は●真っ赤なハートマーク●二つに割れた真っ赤なハートマーク●繕うことなんかできやしないさ●二つに割れた真っ赤なハートマーク●そいつが●おまえを傷つけた男かい●知んねい●笑●おまえもバカだしぃ●おいらもバカだしぃ●笑●ブフッ●自分の日記を読み直してみると●思わず吹き出しちゃって●80年代ポップスってやっぱりいいな●鏡に映った自分の顔は好きじゃないけど●雨ざらしの軒先に落ちてる封筒のなかに入った自分の魂を覗き込むのは好きでさ●いつまでも●よじれた綱のような雰囲気で佇んでいた●親父のおじやって書いて●気持ち悪くなって●ゲラゲラ●おじやの親父って書いて●ゲラゲラ●作ってるのが親父なんかじゃなくって●材料が親父なんだよね●こんなこと書けるのも飯島さんのおかげだから●少しは感謝することにする●飯島耕一●このひとの翻訳本●ひとつ持ってるけど●詩はぜんぜんつまんないのねえ●でもって●このひと●他人の詩はおじやだって言うのねえ●おじやって●おいしいのにねえ●面白くないって意味で●おじやだって言ってるのねえ●自分が書いてるものはぜんぜん面白くないのにねえ●まあ●ちらっと覗いただけだけど●面白くないわねえ●それに●このひと●ゲイを軽蔑してるようなこと●どこかに書いてたように思うけど●まあ●オジンだから許してあげるけど●ほんとふるいよねえ●感覚が●フルルルルー●でも●親父のおじやは面白い●劇オモ●モ●ぐつぐつぐつぐつ●ゲッ●食えるか●こんなもん●食っちゃうのよ●ゲリグソちびっちゃうだろうけど●笑●ゲゲゲ●ゲリグソちびっちゃうだろうけど●ゲゲゲ●ゲリグソちびっちゃえ!
選出作品
作品 - 20130708_400_6950p
- [優] WISH YOU WERE HERE。 - 田中宏輔 (2013-07)
* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。
WISH YOU WERE HERE。
田中宏輔