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作品 - 20130527_919_6890p

  • [優]  日常 - 織田和彦  (2013-05)

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日常

  織田和彦





ぼくは相変わらず独りだった
「独り」という意味の
もっとも正確な意味においてだ

そして陰謀家のように
アイディアが盗まれやしないかと
いつもびくついている

ほんの5分も前のことだ

ぼくはスーパーで大根としめじを選んでいた
形や色を念入りに調べながら産地と値札を見る
その行為はもはや理想でも現実でもなく
奇術のごとき行為なのだ

例えば歯磨き粉や食料品を買い込む人たちの行列がレジにできる
エプロン姿の無表情のソリストたちが
音階のない鍵盤を叩く
客が手にするのは僅かなお釣りと数枚のレジ袋

アリガトウゴザイマシタ/マタオコシクダサイマセ

レジ袋を断り
エコバックに食料品を詰め込むと
ぼくは悲しみと狼狽の絶頂を否応なく味わうことになる

駐車場へ戻り
キーレスで車のドアを開けると
陽に灼けついた空気にどっとくるまれる
ぐったりとシートに体を沈める
車のサイドミラーに映った自販機
買い物袋を片手に
幼稚園児を連れた妊娠した女が横切っていく
30分前の時刻が印字された駐車券を見つめる

この絶対的な“権力”に従わされる人々は
あたかもそれが自然のことのように受け入れ
興奮も沈思もないままそれを受け入れているのだ

信じられるだろうか?

車はいつものルート
つまり一方通行の道を右折し
県道へ出て
ドラックストアへ向かう
まるで美術館で絵画を見て回るように
ショップを回るわけだが
ピカソもシャガールも写楽も工場で大量生産される
資本主義社会では
公平さと差別化が同時にスローガンとなり
人々を分裂的に引き裂いているのだ

信じられるだろうか?

ぼくはもっとも取り澄ました群衆の中の独りだが
同時にいま静かに進行しつつある
革命のデモ隊の先頭を歩くひとりでもあるのだ