港
日はながくなりつつある
おれの足に生えた影のさきっちょ
知らない男らが倉庫のあたりで
ゲームをしてた
港がすぐそこまで近づき
聞きとれない声でなにごとかをいってて
やがて遊びつかれたかっこうの男らは作業着に抱かれて
そのなかへと飛びこんでった
たくさんの
小銭と
札が
まきちらされ
なにかしら病気か
風船みたいに膨らんだ鳥どもがまっすぐに赤いクレーンを過ぐ
おれもそこにむかって飛びだしてしまいたい
そのとき
外国船がだだをこねはじめた
──もうこっから動きだしたくないんだ
──ずっとここらで眠らせておくれよ
夜はかれを絵葉書に包みこみ
ながい路線のずっとさきのほうで
かぜにまきこまれてかれはもう
みえなくなってしまった
点描
M・Yさんへ
かつてあったらしいもろももろを求めてながら
点をたどったところで
なにもない
かれはあたらしい雨を待つ
やもめ暮らしの男だ
ひと昔か
それよりもっとまえのことにあたまのなかが充たされ
とてもじゃないがそいつは追いだせない
みじめったらしく
とっても醜いやつ
過ぎ去ってもはや掴まえることもできない過古と終わりなく話す
だれかがかれを憶えてるかも知れない
でもそれは気休め
たしかに十三年まえの四月
まだ十五歳
駅ビルでかれはかの女から声をかけられた
あかるい声と
とても素敵な笑みで
でもそのときかれはおもうままに応えられなかったみじめなやつだ
すごくうれしくて
すごくこわくなって
逃げだしてしまった
かつてあんなにも好きだったのにもかかわらず
それっきり
きょうもあたらしい雨はやってこなかった
かの女への手紙をいくら書きあげても
届けるあてはない
通りを警笛が鳴りやまず
五月の窓を閉じてかれは横たわる
かの女の二十歳すらも知らず
そんなことがとってもくやしい
選出作品
作品 - 20130523_858_6886p
- [佳] 港、ほか一篇 - 中田満帆 (2013-05)
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港、ほか一篇
中田満帆