選出作品

作品 - 20130523_858_6886p

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港、ほか一篇

  中田満帆



 日はながくなりつつある
 おれの足に生えた影のさきっちょ
 知らない男らが倉庫のあたりで
 ゲームをしてた
 港がすぐそこまで近づき
 聞きとれない声でなにごとかをいってて
 やがて遊びつかれたかっこうの男らは作業着に抱かれて
 そのなかへと飛びこんでった
 たくさんの
 小銭と
 札が
 まきちらされ
 なにかしら病気か
 風船みたいに膨らんだ鳥どもがまっすぐに赤いクレーンを過ぐ
 おれもそこにむかって飛びだしてしまいたい
 そのとき
 外国船がだだをこねはじめた
 ──もうこっから動きだしたくないんだ
 ──ずっとここらで眠らせておくれよ
 夜はかれを絵葉書に包みこみ
 ながい路線のずっとさきのほうで
 かぜにまきこまれてかれはもう
 みえなくなってしまった


点描

     M・Yさんへ

 かつてあったらしいもろももろを求めてながら
 点をたどったところで
 なにもない
 かれはあたらしい雨を待つ
 やもめ暮らしの男だ
 ひと昔か
 それよりもっとまえのことにあたまのなかが充たされ
 とてもじゃないがそいつは追いだせない
 みじめったらしく
 とっても醜いやつ
 過ぎ去ってもはや掴まえることもできない過古と終わりなく話す
 だれかがかれを憶えてるかも知れない
 でもそれは気休め

 たしかに十三年まえの四月
 まだ十五歳
 駅ビルでかれはかの女から声をかけられた
 あかるい声と
 とても素敵な笑みで
 でもそのときかれはおもうままに応えられなかったみじめなやつだ
 すごくうれしくて
 すごくこわくなって
 逃げだしてしまった
 かつてあんなにも好きだったのにもかかわらず
 それっきり

 きょうもあたらしい雨はやってこなかった
 かの女への手紙をいくら書きあげても
 届けるあてはない
 通りを警笛が鳴りやまず
 五月の窓を閉じてかれは横たわる
 かの女の二十歳すらも知らず
 そんなことがとってもくやしい