どうしてだれもドアをあけないのだろうかとおもう
ひなびたアパートメントで寝てるのは?
あるとき
音があった
睡りから醒め
窓が薄緑になってるとき
おもてはいつも静かだ
愉しみでいっぱいというのにどうしておれは噤むのか
歩くひとびとは搾りたての乳のような腥さ
やぶれはててはたちどまり
唇ちのなかにあるのは
あらゆるものを見喪って
好機の見いだせないとき啜るジンジャーエールの味
ひとたびそれをおもってはあまり願いは抱けない
納屋を燃やせ
うちなる納屋を燃やせ
おまえ燃やしてしまうがいい
それならずっと草のように生きられる
はやい話し夢の尽きたあとを追い求めて
走っていくのがふさわしいのか
このまえどこかの裏庭を濡らした雨はかわいかったよ
いずれにせよ
いかなくてはならない
求めるものを決して数えないで
求めるときには時計はずして
自身をただ解きほぐすこと
多くのものやひとが散っていく
たったひとりと天界とをむすびつけようとしてだ
それでも留まってるのはいや
ながく滞在できないのを知ってる
眼のまえでひとりの女が手袋を投げ棄ててった
できるならかの女にとってふさわしいやつになりたい
列車は市外へとまっしぐら
隣にはオースターのインタビューを読みながら
ふるい帽子についておもう男
かれが降りていったのは北口で
だからこっちは南口
降りようとしたら
気づいたよ
これがもう終の行路だってこと
鉢植えがいらなくなったのを
かの女わかってる
きっと抛りだして
でも気にはとめない
だってしあわせなんだもの
知らない土地で身をよこたえるように
知らない土地で半分その身を埋めるみたいに
選出作品
作品 - 20130508_707_6861p
- [佳] 失踪人 - 中田満帆 (2013-05)
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失踪人
中田満帆