選出作品

作品 - 20130506_661_6854p

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ROUND ABOUT。

  田中宏輔

  

●桃●って呼んだら●仔犬のように走ってきて●手を開いて受けとめたら●皮がジュルンッて剥けて●カパッて口をあけたら●桃の実が口いっぱいに入ってきて●めっちゃ●おいしかったわ●テーブルのうえの桃が●尻尾を振って●フリンフリンって歩いてるから●手でとめたら●イヤンッ●って言って振り返った●このかわいい桃め●と思って●手でつかんで●ジュルンッって皮をむいて食べてやった●めっちゃ●おいしかったわ●水槽のなかに●いっしょうけんめい●水の下にもぐろうとしてる桃がいた●人差し指で●ちょこっと触れたら●クルクルッって水面の上で回転した●もう●このかわいい桃め●と思って●水面からすくいだして●ジュルンッて皮を剥いて食べてやった●めっちゃ●おいしかったわ●顕微鏡を覗くと●繊毛をひゅるひゅる動かして桃がうごめいていた●めっちゃ●おいしそうやんって思って●プレパラートはずして●なめてみた●うううん●いまいち●望遠鏡を覗くと●桃の実の表面がキラキラ輝いていた●めっちゃ●おいしそうやんって思って●手を伸ばしたけど●桃の実には届かなくって●うううん●イライラ●桃の刑罰史●という本を読んだ●おおむかしから●人間は桃にひどいことをしてきたんやなって思った●生きたまま皮を剥いたり●刃物で切り刻んだり●火あぶりにしたり●シロップにつけて窒息させたり●ふううん●本を置いて●スーパーで買ってきた桃に手を伸ばした●ここには狂った桃がいるのです●医師がそう言って●机のうえのフルーツ籠のなかを指差した●腕を組んで●なにやらむつかしそうな顔をした●哲学を勉強してる大学院生の友だちが●ぼくに言った●桃だけが桃やあらへんで●ぼくも友だちの真似をして●腕を組んで言うたった●そやな●桃だけが桃やあらへんな●ぼくらは●長いこと●にらめっこしてた●アメリカでは●貧しい桃も●努力次第で金持ちの桃になる●アメリカンドリームちゅうのがあるそうや●まあ●貧しい桃より金持ちの桃のほうが●味がうまいと決まってるわけちゃうけどな●夏休みの宿題に●桃の解剖をした●桃のポエジーに勝るものなし●って●ひとりの詩人が言うたら●それを聞いとった●もうひとりの詩人が●桃のポエジーに勝るものは●なしなんやな●と言った●桃のポエジーか●あちゃ〜●気づかんかったわ●ポスターの写真と文字に見とれてた●桃のサーカスが来た●っちゅうのやけど●おいしそうな桃たちが綱渡りしたり●空中ブランコに乗ってたり●鉄棒して大回転したり●めっちゃ●おいしそうやわ●岸についたと思ったら●それは桃の実の表面だった●泳ぎ疲れたぼくが●いくら手を伸ばしても●ジュルンッジュルンッ皮が剥けるだけで●岸辺からぜんぜん上がれなかった●桃々●桃々●いくら桃電話しても●友だちは出なかった●なんかあったんかもしれへん●見に行ったろ●桃って言うたら、あかんで●恋人が●ぼくの耳元でささやいた●わかってるっちゅうねん●桃って言うたらあかんで●恋人の耳元で●ぼくはささやいた●わかってるっちゅうねん●桃って言うたら●あかんで●そう耳元でささやき合って興奮するふたりであった●あんた●あっちの桃●こっちの桃と●つぎつぎ手を出すのは勝手やけど●わたしら家族に迷惑だけはかけんといてな●そう言って妻は二階に上がって行った●なんでバレたんやろ●わいには●さっぱりわからんわ●お父さん●あなたの桃を●ぼくにください●ぼくはそう言って●畳に額をこすりつけんばかりに頭を下げた●いや●うちの桃は●あんたには上げられへん●加藤茶みたいなおもろい顔した親父がテーブルの上の桃を自分のほうに引き寄せた●わだば桃になる●っちゅうて●桃になった桃があった●さいしょに桃があった●桃は桃であった●桃の父は桃であった●桃の父の桃の父も桃であった●桃の父の桃の父の桃も桃であった●桃の父の桃の父の桃の父の桃も桃であった●すべての桃の父は桃であった●わたしのほかに桃はない●たしかに●テーブルのうえのフルーツ・バスケットのなかには●桃しかなかった●そして桃が残った●桃戦争●桃と偏見●この聖人は●桃の言葉がわかっていたのでした●桃と自由に会話し●議論を戦わせ●口角泡を飛ばしまくってしゃべり倒したという伝説があります●世にも不思議な桃の物語●ふたりの桃がパリで出会い●メキシコに駆け落ちしたあと●ひとりの桃が●じつは桃ではなく●果実転換手術によって桃になっていた林檎だとわかって●しかし●それでもふたりは最後まで桃してたという●桃物語●デスクトップの画像が●桃なんやけど●友だちが部屋に遊びにくるときには●林檎の画像に替えてる●天は桃の下に桃をつくらず●桃の上にも桃をつくらず●あんた●そんなアホなこと言うてんと●はやいこと●ぜんぶ摘みとってよ●ほいほ〜い●桃ホイホイ●夜泣き桃●もしも世界が100個の桃だったら●桃の実を切ったら金太郎が出てきたんやから●金太郎を切ったら桃が出るんちゃうか●あ●これ●桃太郎やったかな●桃●太郎●ほんまや●桃太郎を切ったら●桃●太郎になった●笑●平均時速30キロメートルで走る桃がスタートしてから20分後に●平均時速45キロメートルで走る桃が追いかけた●あとで同じところからスタートした桃は何分後に追いつくか●計算せよ●人間のすべての記憶が桃になることがわかった●世界中で起こるさまざまな発見や発明も●桃になることがわかった●めっちゃ●いやらしいこと考えた●恋人とふたりで●裸になって●桃の実を●お互いの身体に●べっちゃ〜●べっちゃ〜って●なすりつけ合うんじゃなくて●服を着たまま●じっと眺めるの●ただ●じっと眺めるの●なが〜い時間●じぃっと●じぃっと●もう桃がなく季節ですな●そう言われて耳を澄ますと●桃の鳴き声が聞こえた●違う桃●同じ桃●違う桃のなかにも同じ桃の部分があって●同じ桃のなかにも違う部分がある●違う桃●同じ桃●同じ桃の違う桃●違う桃の同じ桃●違う桃の同じ桃の違う桃●同じ桃の違う桃の同じ桃●違う桃の同じ桃の違う桃の同じ桃は●同じ桃の違う桃の同じ桃の違う桃と違うか●桃以外のものは流さないでください●トイレに入ったら●そんな貼り紙がしてあった●きょう●桃が●ぼくと別れたいと言ってきたのです●ぼくは桃だけのことを愛していました●桃だけが●ぼくの閉じこもった暗いこころに●あたたかい光を投げかけてくれたのです●ぼくは●桃なしには生きていけません●どうか●お父様●お母様●先ゆく不幸をおゆるしください●一個の桃とは●闘争である●二個の桃は●平和である●だって●ふたりやもん●桃とぼくのあいだには●桃の皮と●ぼくの皮膚がある●ぼくが桃を食べると●桃はぼくになる●桃の皮膚が●ぼくの皮をめくって●ぱくって食べちゃうのだ●もちろん●桃的視点は必要である●絶対的に必要であると言ってもよいだろう●一方で●非桃的視点も必要である●また●桃的であり●非桃的でもある桃非桃的視点も必要である●また●桃的でもなく非桃的でもない非桃非桃的視点も必要である●憑依桃●黒い桃●赤い桃●緑の桃●灰色の桃●紫の桃●点の桃●線状の桃●直線の桃●平行な桃●垂直な桃●球状の桃●正四面体の桃●円柱の桃●2次曲線の桃●円状の桃●双曲線の桃●りんごの匂いの桃●さくらんぼの匂いの桃●プラムの匂いの桃●スイカの匂いの桃●蝉の匂いの桃●ダンゴムシの臭いの桃●イカの臭いの桃●牛のお尻の臭いの桃●一つの穴の桃●無の桃●えっ●どこがいちばん感じるのかって●ああ●めっちゃ●恥ずかしいわ●桃がいちばん感じるの●まっ●桃ね●呼ばれても返事をしない●誘われても振り返らない●ぼくはそういう桃でありたい●ジュルンッ●桃が腹筋鍛えてたら●どうしよう●あ●皮はよけいに簡単に剥けるわな●いまだに●ぼくは桃が横にいないと眠れないのです●桃ダルマ●道に落ちてる桃をあつめて●大きな桃ダルマをつくるの●振動する桃●テーブルのうえの桃を見てたら●わずかに振動していることがわかった●桃の見える場所で●もし●突然●窓をあけて●桃が入ってきたら●昼の桃は●ぼくの桃●夜の桃も●ぼくの桃●突然●2倍●4倍●8倍●……●って増えてく桃●桃の味のきゅうり●きゅうりの味の桃●幸せな桃と●不幸せな桃があるんだとしたら●ぼくは幸せな桃になりたい●改名できるんなら●桃田桃輔がいい●たしかに●一個のリンゴは●皮を剥いて渡されても●手でとれるけど●一個の桃の実は●皮を剥かれて渡されても●手でとりたくないかもにょ〜●真実の桃●偽りの桃●いずれにしても●桃丸出し!