ジョセフ・ロス
ザ・アプステアズ・ラウンジ, ニューオリンズ, 1973年6月24日
1
シャルトル・ストリートと
イベルビル・ストリートの一角に
そこはシティーの
二度、焼け落ちた場所で
ザ・アプステアズ・ラウンジは
ゲイ・バーと教会の両方を兼ねたところで
ある人々にとっては、落ち着かない雑然とした場所で
他の人々にとっては、欲望と希望の聖なる混合とも言うべきところだった。
そこに入る許可を得るためには
ベルを鳴らさなければならなかった。
そこには、一人のフレンドリーなバーテンダーがいたし
白い小さなグランド・ピアノがあった。
日曜日の午後には、ビール・スペシャルのあと
欲望がいつものコースをたどって
希望がようやく訪れると
教会では、いっとき、二、三脚の椅子を動かして
ピアノに流行りの音楽を伴奏させて
彼らは、歌うにふさわしい気分で歌を歌ったものだった。
彼らは、まさに祈る気持ちをもって、こころから祈っていたのだった。
2
そのバーに面した通りから上り
階段の上に立って
ライターにオイルを注ぎ込んだ者がいた。
それから、それらのつるつるした階段にオイルを塗りたくって
マッチを擦ったのだった。それは聖霊降臨節をもたらしたかのように
火と風が
すごい勢いで階段を上ってゆき
階段の最上段で、ドアをなぎ倒し
祈りをささげていた者や、友だちたちや、恋人たちのいる
部屋のなかにまで入ってきて爆発を引き起こしたのだった。
二人の兄弟と、その兄弟たちの母親がいた。
聖霊は沈黙していた。
言葉を口にする者は一人もいなかった。
3
逃げることができた者もいたが、多くの者たちが死んだ
その口元を手で覆いながら。
ジョージという、一人の男が煙とサイレンで目が見えなくなり
喉に灰が詰まって
いったん外に出て、それから
彼のパートナーのルイスを探しに戻った。
彼らの姿は見つかった、互いに抱き合いながら
螺旋の形となった骨として。
白い
小さなグランド・ピアノの下で。
それは、彼らの命を救えなかったのだった。
4
あとになって、一つのジョークが口にされた。
ラジオ番組のホストがこんなことを言ったのだ。
おかまの灰を何に入れて
そいつらを埋葬するのか?
もちろん、フルーツ入れさ。
一人のタクシー・ドライバーが、こんなことを望んだ。
火が
あいつらのドレスを焼き尽くせばいいと
笑い声が聞こえてくると
そう思った者たちがいる
大聖堂から聞こえてくると。
5
三十一人の男性と
一人の女性が死んだのだ。
イネズは
ジミーとエディーの母親だった。
彼ら三人は、一つのテーブルを囲んで
坐っていたのだ。
上の部屋が爆発して
炎とパニックを引き起こしたのだ。
四人の他人もいて、彼らの身元は
警察が確認したのだが
彼らの身内は遺体を確認したいとも申し出なかった。
彼らの家族にとって、恥だったからである。
その家族たちは、もちろん、イネズや彼女の息子たちのことは知らなかった。
いま、その家族たちの息子たちはみな
煙の孤児となっている。
6
鞭打つ炎と
気管をふさぐ黒い煙のあとで
炎のひとなめによって絶叫がわき起こり、それが止むと
静寂となり、サイレンが鳴り響くと
放水がはじまり、消防車から屋根へと
切れ目なくつながった水が弧を描いていた。
水が
焼けて炭になった梁から滴り落ちて
一人の男の焼死体が
窓枠から覗き見られたあとで
三十一人の遺体が
いっしょくたにされて下ろされると
誰が誰か確認できるコンテナー車のなかに
さっさと運び入れられた。
どの教会も、彼らの遺体を埋葬しようとはしなかった。
どの神の家も、その扉に錠を下ろして
カーテンをぴしゃりと閉じていた。
一人の男が、一人の牧師が、救いの手を差し伸べた。
彼は、聖ジョージ監督派教会から派遣されてきたのだった。
彼はヘイト・メールを受け取った。
聖域を
灰となったこの信徒団のために開放したために。
いま、その灰は姿を変えて
薫香の雲となり
神を賛美して、空中に立ち上っている。
Joseph Ross
The Upstairs Lounge, New Orleans, June 24, 1973
1
At the corner of Chartres
and Iberville Streets,
in a city that burned
to the ground twice,
the Upstairs Lounge was
both gay bar and church.
An uneasy mingling for some,
a holy blend of desire and hope
for others. You had to ring
a bell to be admitted:
a friendly bartender, a white
baby grand piano. After the
Sunday afternoon beer special,
when desire had run its course,
the hope came round and church
began once a few chairs were moved,
new music found for the piano.
They sang like they deserved to.
They prayed like they meant it.
2
Someone poured lighter fluid
onto the stairs that rose
from the sidewalk to the bar,
then anointed those slick stairs
with a match, creating a Pentecost
of fire and wind
that ascended the stairs
and flattened the door
at the top, exploding into the room
of worshippers, friends, lovers,
two brothers, their mother.
The holy spirit was silent.
No one spoke a new language.
3
Some escaped. Many died with
their hands covering their mouths.
One man, George, blinded by smoke
and sirens, his throat gagged
with ash, got out and then
went back for Louis, his partner.
They were found, spiral
of bones holding each other
under the white
baby grand piano
that could not save them.
4
Then came the jokes.
A radio host asked:
What will they bury
the ashes of the queers in?
Fruit jars, of course.
One cab driver hoped
the fire burned their
dresses off.
Some thought
they heard laughter
from a cathedral.
5
Thirty-one men died
and one woman,
Inez, the mother of
Jimmy and Eddie.
The three of them sat
at a table, when this
upper room exploded
into flame and panic.
Four others, though their bodies
were identified by police,
went unclaimed by their relatives.
It is a shame those families
didn't know Inez and her sons.
Now all their sons are
orphans of smoke.
6
After the whipping flames
and the choke-black smoke,
after the screams were singed
into silence, after the sirens,
the hoses, the arcs of water
strung from truck to roof,
after the water dripped
from charred beams, after one
man's burned body was
pried from a window frame,
and thirty-one others
were gathered and lifted
or swept into identifiable
containers, no church
would bury them, every
house of God, a locked door,
curtains drawn tight.
Save one: a priest from
St. George's Episcopal Church,
who received hate mail
for opening his sanctuary
to this congregation of ash,
now transformed into
clouds of incense,
rising like praise into the air.
Joseph Ross : ジョセフ・ロスは、ワシントンDCの詩人で教師である。彼の詩は、多くの雑誌や、Poetic Voices Without Borders 1 and 2 (Gival Press, 2005 and 2009)やDrumvoices RevueやPoet LoreやTidal Basin ReviewやBeltway Poetry QuarterlyやFull Moon on K Streetを含む多くのアンソロジーに掲載されている。二〇〇七年に、彼は、Cut Loose the Body: An Anthology of Poems on Torture and Fernando Botero’s Abu Ghraibを共同編集した。(JosephRoss.net)
選出作品
作品 - 20130401_885_6790p
- [佳] ザ・アプステアズ・ラウンジ, ニューオリンズ, 1973年6月24日 Joseph Ross 作 田中宏輔 訳 LGBTIQの詩人たちの英詩翻訳 その7 - 田中宏輔 (2013-04)
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ザ・アプステアズ・ラウンジ, ニューオリンズ, 1973年6月24日 Joseph Ross 作 田中宏輔 訳 LGBTIQの詩人たちの英詩翻訳 その7
田中宏輔