選出作品

作品 - 20130115_033_6635p

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愛の歌

  箱舟

何者かが肩ごしに身を翻す
輝く瞳の揺籃期は
見るものすべてに意味があり
その意味を理解した
魚が蛇が、虻が、羽のある種族が――
花開き、萎れ、再び開花してゆく
極彩色に変化してゆく過程
巣箱をすり抜ける冷まじき風と
朽ちた落葉で出来た私達
反り返り宙をトンボ帰り
命長らえる瞬間に
素肌のあなたとわたし
あなたの白い胸に散る雀斑(そばかす)の数さえ
宇宙の星と繋がる
あなたは固有の匂いを纏い
赤い喉そのままの色彩で言葉は定着する
ここには隠された意味はない

あさまだき
闇の匂いが薄れ
夜の衣が剥がされてゆく
透明な青から しののめ あけぼの 明るい空へ
わたしたちはその場所に横たわり
はたして わたしは そこにいた
あなたが そこに いたからには
薄荷とメンソールの匂いが薄れ捲れてゆく
あなた自身も捲れ 
陽が差しこんでくる
朝が塗り替えた空に
小鳥は赤いワインのように落下する 
地上から高みへ
あなたの記憶が燃え上がらせるのだ
はたして わたしは そこにいる
あなたが そこに いたからには

春の歌を唄え 冬の歌を おお 大地よ 
愛の歌を唄おう 世界は美しい
そこにわたしはいる あなたの側にいる

春 雲は胸のあたり 半身を出し淡い色彩を歩く
夏 夜と朝の間で いまだ二人は砂に埋もれて
秋 海の底冷え 絡まる橙と青の静脈の毛糸 ほころびてゆくとき
冬 狼の横顔 馬の尻 あなたの歩く影 に雪が降る

愛の歌を唄え 世界は美しい おお 大地よ 海よ
そこにわたしはいる あなたの側にいる

足を水に浸し またあの場所にいる 海辺
浮かび上がる 光のなかへ 外へ あなたへ
あふれ 広がるものを前に 胸を張るものを前にして
注ぎたそう千粒の涙を 
こぼれるもの
幾億粒の砂より掘り出そう 言葉を 
あふれ こぼれるもの

わたしたちの子供が手を繋ぎ輪になって回る
風のなかの洗濯物のように
どの顔も膨らみ弾ける笑みで