選出作品

作品 - 20130114_998_6634p

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水かがみ

  Touko Kamiya

土曜の夜には
湖の
底の底まで降りていって
あなたの
骨を抱きます
知っていますか、
その窪みに
耳をあてると
さらさらと砂の
こぼれるような音のすること、


両手を
皿のようにして
掬いあげたかったのは
湖面に
吸いこまれていった雪片
すこしずつ
失われていった海底都市に
眠ったままの
あなた
化石のようにまるくなって


眸をささえる
表面張力に
はじかれて
消えてしまったわたしの
視線が、肌を
呼んでいるけれど
湖面は
しずかすぎて耳を
澄ますことしかできないのでした


覚えていますか、
あなたが
肺呼吸をはじめた日のこと、
呼気は
泡となって
水面に
ひたひたとまぎれた、
わたしの
足の裏がつめたいのは
きっと
欠けた月のせいで
どうしてかんたんに
からだは浮かんでしまうのだろう


まだ
生まれていないあなたに
ありふれた名前をあげたい、
こぼれていく砂を
拾い集めて
なにもかもをゆるしてあげる、
夢だけを
みる、季節の
流れていくはやさで


いつだって、
ことばだけが死んでいる
あなたの
湖はくちぶえをふいて
ほら
また、
週末には帰ってくるよ、
しずかなひかりに
洗われて、
蛹化するわたしの骨
遠ざかるまぼろしの水、