たぶん始めに言葉も行いもあったから、僕たちは踊る。祖母はすこし丸いお腹にたくさんの宝石をつめて死んだ。むしろ僕は悪い宝石のためにお花をささげます。夕空だってきっと、その日は僕らを覆うこともせず、 鳥もカンガルーも厳粛です。地図のここと、人差し指であなたは、僕らを定め、いままでなににも捧げなかった薬指で、私はここ、と鼻の頭をゆび指しました。
右耳のイヤホンからあなたの声。左耳のイヤホンからだれかのお腹が凹んでいく音。どちらもわけ切れない。空色の道路。天気雨のトンネル。やがて僕ら朝霧に溶けて。空の姿見で化粧する海。あるいは望まれない浅い朝。すべてがガスからできた街。遠く、ガラスの海嘯。がらがらと崩れるみたいに景色はすすむ。暁と夕暮れはべつべつの双生児。そして街!文明を僕に光らせてね。メリーゴーランドの馬賊だ。コンクリートにゆっくり沈没するビル群の橙色。地雷を踏んだら虹色につつまれちゃうんですね。虹が沈殿。夜が自作自演した、ちがう夜。財宝。銀貨を噛み砕く野良犬。NPCな人々。本当にいきているの?神様がインストールされてないのだ。まるで不機嫌にうつむいて、ワン、ツー、ワン、ツー、足踏みして、どこにもいけない、いかない二進法。カーテンのように、祀られる神殿の。
振り返らないやさしさ。怒りをこめない雄々しさ。そして僕たちの諍い。逆しまの季節に語られる言葉は、みんな数学の問題みたいに分からない。 なにもないことが本当にあるなら。それはそれで素敵だから、ポカラの湖のことを最後に語らせてください。コップに水をいれます。(なるべく澄明に)ビー玉を落とします。カタン、と底に落ちたときにする音。それであなたの眠りが始まる。あなたは夢をみている。汀に座るあなたが考えることは、湖なんてそもそもなかったこと。古い光が根絶やしにされたら。それはただの大きな穴ではない、間歇ではない、空虚ですらない、火山湖でもない、精霊なんかいない。あなたしかいない。生きる、あるいは生きてないぼくらしかいない。めのまえの闇。静寂の発音。透明すぎる水。裸足の絶望。花の香りが散華するのをまって。心音が定まるのをまって。あなたはおもむろに棄教した。もうすべてがどうでもよくて、その時はなんでもなかったくせに、なぜかそのことばかり思い出しながら。そして、野原に歩いて帰るとき、あの遠方から、あなたに目配せする風車にむかおうとするとき、そしてあなたが目覚めるとき、言葉があったか、それとも行いがあったか、豪奢な光に瞼をけしかけられるとき、はじめて唇をひらくとき、それはまったく、あなたが贈る、祝詞しだいだ。
選出作品
作品 - 20121016_042_6417p
- [佳] 棄教。遠足。 - コーリャ (2012-10)
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棄教。遠足。
コーリャ