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作品 - 20120821_518_6284p

  • [優]  生贄 - コーリャ  (2012-08)

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


生贄

  コーリャ




きみがほめてくれた鼻梁のさきから

からだは腐りおちていきます

(崖にたつ風車たちがうつろに手をふって

入水自殺をこころみるたぐいの


そうして盲いるときは

たとえ

けつえきが砂鉄で

ざえざえになっても

黒人というよりは

黒曜石(sic)にちかい鳥類として

うみべを警備しようって

こんたん

氷を燃やしたみたいにつめたい火矢を

星空に放ちながら

夜が朝にプロポーズするのを

指さし確認する

というおしごとをします


世界にはいろんなひとがいますからね

なんで生きてるんだろうってひとばっかりですが

みえない精霊と手をつないでぐるぐるダンスしつづけることで

神様にちかづいていく

そんな祈りかたを

いちばんはじめに

祈ったひとをしってますか?

階段の折り返しばしょで

なんとなく

神聖にふるまっているのは

その踊り手へのあこがれからです




ヤクの角でできたカヌーが霧の川をくだっていくように

いちばんはじめにこの街の匂いをかいだときみたいに

あるはずもない天国のことをかんがえています

そこにすむ動物の性格

なきごえ

にじの色のかぞえかたや

あらゆるおぞましい地名

ドストエフスキーはそっちでげんきにやってるか

ただ生きてるだけでなにかを盗んでいるきもちになることとか

なにもかも

なにもかもだった




「やっぱり許されたいから?」

とカーラジオのCMがいった

やっぱり許されたいから6月


よぞらに

アルミ缶を

星のかずだけ吐きだす自販機と

おなじ声質で

踏み切りの遮断機はうたって

あちら側とこちら側を

すらりとした二の腕でへだてた

助手席になげていたポールモールに手をとる

さいきんは世界中どこでも

悪魔の従者のように喫煙者をあつかうため

失明のげんいんになります

という警告文と

アイスランドでたべるブルーハワイの色をしたひとみのおとこが

異端審問官として

喫煙者たちをへいげいしている

車のハンドルにもたれてなにげなく

めのまえを横断していく

二両編成の列車は

仲良く手をつなぎながら

雑種のしょくぶつがよこしまなことをしているような森の奥へと

いみもなくわらいあいながら

かけこんでいった

そのあいだ

ずうっと

車のラジオは

季節のはなしをしていた

レモンを半分にきります

片方はすてます

のこったほうを

お皿にそえます

はいどうぞ

これが六月です

ということらしかった




神様は

ひとびとを

はんぶんこにしちゃったのである

だから私たちはいわば理科準備室の人体模型であり

いきることは

えいえんに放課後をまっていることにほかならず

立たされたままねむる夢のなかで

わたしたちは半身の肌を探しに

いつもたびにでかけているんだよ



と言った



天国では死んだひとたちが

生きてきたなかで

いちばんきれいだった海の話をするそうだけど

海のかわりに僕はいちばんきれいだった女の子のこと



と言った



あなたが死ぬとわたしも死ぬよ

と言った

自殺よくない

と言った

ちがうの

死んだあなたに殺されちゃうんだ

死んだあなたはわたしのすこしのぶぶんを略奪して

しのせかいにつれさってしまうの



と言った



いまも人体模型たちは

せかいじゅうのおおきなまちとちいさなまちを疾走しながら

半身をさがしているんだろうか

とは誰も言わなかった

そのかわり

さよならはちょっとだけ死ぬことだ

と誰かが言った

もしあなたたちのどちらもただしいなら

ぼくたちはさつりくをくりかえすことになり





そして、

そして、

とつぶやく接続詞が、

やさしくいだくうちゅうを航跡をひきながら旅団していく、

ながれぼしはいちびょうのあいだになんども死にながら

かつてうつくしかったものをひとつづつていねいに忘れていったのち

ショートケーキでできた地上に

アイシングシュガーとしてふり注いでいた

大気圏を突破したじゅんから

虹色のばくはつをおこす

戦時中にもかかわらず

ひとがしんだりするにもかかわらず

彼女はそんなところからわらいかけてる

流れ星をそのてのひらにうけとるごとに

地平線が歌うみたいに仄かに光る

そう 滅びるってこういうこと!

彼女は駆け出す

もう

うごかないオルゴールみたいな

うごかない遊園地の

うごかないコーヒーカップに

ふたりはのりこむ

聴こえる近さのものでは

みんな気狂いのお祭りのようだったし

聴こえこえないくらい遠くでは

国がホットチョコレートととして溶けながら滅亡した

かれらはまたどうしようもなく諍う

ひとが死んだらどうなるのか?

天国にはいかない

もしあなたが死んだら?

天国にはいかない

さようならは


そしてそしてそして

きみがほめてくれた鼻梁のさきから

崩落がはじまっていったら

すべてのビルがぜつぼうにくずれおちたら

ぜんぶのことばのいみがほどけて

いっぽんのピアノ線になってしまったら

クローゼットのなかには

さんかくすわりの天使がいて

あなたが死ぬまで歌をうたいつづけたら


素敵だなとおもったのですが

たぶん

ビルはおもいのほかくずれませんし

ことばのいみはわりとちゃんとわかってますし

天使とかいない

ピアノもなります

きせきとかもない

それは絶望とすらよんではいけない

魂とかほんとうはわからない

それでも

美しさをぜんぶさしひいたあとの地平に咲いた

なにかを

神聖とかんちがいしながら

生贄でもいいから

生贄でいいから



  追伸.


 (列車のレールは

 水底まで届いていたから

 なすがままに列車たちは

 みずうみに

 音もなくすべりこみ

 やっぱり

 手をつないだまま浮かんで

 空を飛ぶさまざまなものを

 みつめながら

 くるりくるりと

 水没してゆきました



 れっしゃは

 てんに

 のぼっていく

 あぶくをはきながら 

 あおいてんに

 のぼりながらぼくのなかでことばがあふれていく

 そのしゅんかんに

 ころされていれる

 ぼくたちはそのままの

 ことばになれずに

 みずにさいて

 さけて

 ちりになり

 ほのをもしらずに

 もえていく

 といい

 へんじがないと

 となりをみると

 とっくに水没してしまい

 とてもちいさいものになってしまっていて

 ひかりさえもぼくらをからめとらない

 なめらかなあんこくの

 もっとおくで

 なる心音に)