選出作品

作品 - 20120409_946_6002p

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偽の植物園

  水野 温



蒼穹ということばのなかにきえてゆく鳥の声が
とりかえしようのないあえかな記憶の
みずみずしいうそを
傷つけている 

そしてわたしはきみにはもうあたえることができない

いうよりはあたえるものさえも思いだせないままに秋の
蒼穹のなかにきえて
ゆくのである 鳥の声は。 (あざやかな
黄金状の死のなかで倒れふす男の夢が
反復され)水の気配がしずかにひろがってゆく。

    ありふれた風景がひろがる秋の植物園のまぼろしが
            陽射しのうちがわにおりこまれ

思いだせないもののおもさが
枯れ葉いろの空白ににじみながらしずんでゆくいたみを
すこしづつずらしながら
鳥の声をきいている

きいているのはだれだろうか
わたしではない。