おぼろ月の夜
一日のためいきが霧となって森を覆っている
初夏の日差しにうたれた葉は
産毛をひらき 月のひかりを浴びている
森の奥
鼻を濡らした一頭の獣が立つ
におい立つ皮膚に 脂ぎった獣毛
土を押し込むように肉球を圧する
かすかな気配
ひそかに 闇の隅をこする生き物がいる
新たなる命の光源が点滅する
葉は風をよび 毛羽立ち 鋸歯はさざなみ しずくはふるえる
一片の葉の舞い、
はじけたバネが月夜に放物線を描く、線はいざなう
葉を蹴散らし
絞り込んだ筋肉で柔らかい肉を羽交い絞めする
濁音が回転しつづけると骨を揺さぶる音源が土を震わせ
体液は闇に沸騰する
胸の反復がしだいに薄れ
吹き出しのような息がひとかたまり
土ぼこりの上に落ちた
まなこを一巡させ あたりをうかがう
喧騒の破片がふわふわと漂い知ると
闇の獣は新たなる踏み込みで肉球を地面に押しつける
闇は反転する
月はひかりをとりもどし 新しい闇を造成してゆく
体腔の内容物をすすりこむ音と
骨を噛み締める音
それらの音と 葉のささやきが
闇の純度を増してゆく
しだいに獣に埋めこまれた充足が 押し詰まった空気をゆるめ
やがて獣は木の葉に尾を滑らせるように
時折あたりを警戒し闇に消えた
選出作品
作品 - 20120327_413_5971p
- [佳] 闇の獣(リメイク) - 山人 (2012-03)
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闇の獣(リメイク)
山人