まったくの
不注意で、
飯碗が
割れた。
アッ、
砕片に、
遅ればせながら
おどろいた。
薄手の
うぐいす色の
碗の
かけら。
ひとり住まいゆえ、
愛用の
などと聞かせる
人がない。
流しから
拾いあげつつ、
うわの空に
困った。
人がいない。
すべて、
そろわない。
漏れる
息、
あるいは、
蒸気の
音ばかりが
しばらく
漂った。
しゃもじで、
未だ
訪うことのない
客のための
碗に、
炊き込みご飯を
よそう。
喉に
かき込んでは、
口にぶ厚い
碗のふちに、
カチリ、
歯が
鳴った。
選出作品
作品 - 20120321_246_5952p
- [優] 欠損 - 泉ムジ (2012-03)
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欠損
泉ムジ