選出作品

作品 - 20120301_710_5904p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


弟の里帰りに際して思うこと

  笹川

弟が来る
疲れた顔をした地方公務員にとって
この家は何なのだろう
子供の世話を焼く、たぶん堂々とした嫁
長女は、アンパンマンをはしゃぎながらに唄う
俺も好きないい曲だから
こわしそうなコイツを膝の上に抱きかかえた
弟にとって、大切なこのぬくもり

共にストイックなヒーローに憧れた日
つい、この前じゃなかったか
酒飲むな、たばこ吸うな、だったな
もう、ライブハウスとか行ってないだろ
きっともう、必要がなくなったんだよ
弟宛ての国際郵便は、いつの頃からか来なくなった

坊主頭だった日の、夜の勉強時間
そっと襖を開けたら石を肩に乗せて黙とうしていた
見たのは気づいていないだろう、多分
あとで、誰もいない時に引き出しを開けて雑誌を借りた
あぁ、何冊もあったな、刺激的な石が写っていた
俺まで丸石好きになった

広いおでこにタンコブをつくる
よく転ぶ子供だな
指を舐める癖がある
俺と手をつないで写真を撮った
大好きな弟だ
補助輪付きの自転車に乗った俺は、弟を連れている
その時の、弟の笑顔が忘れられない
彼のさんりんしゃは坂道で暴走した
小さな薄い後頭部が前を通り過ぎ、側溝に落ちるまでを俺は見ていた

次女はたえず指をしゃぶる
毛の薄いこの赤ん坊を俺は好きだ
携帯で撮って待ち受け画面にしている
寂しそうに泣くけど、俺には何もしてやれない
毛がピンと立っているのは弟と同じだ
正月は二日に来ると電話があった
俺の母親には、ひと仕事だ 喜ぶくせに後で必ずぼやく
父親はそれを聞くといつも、腹を立てたようなそぶりを見せる

この前、新築した都会の家に手伝いに行った
俺と父親はやる気充分なのに、弟はボケーっとしてる
飯、おごってくれるって言うんでついて行ったのに財布忘れてやんの
命令とか指図するのが得意分野か、あぁ、役人だな、うざい
缶コーヒーを、業者から貰って飲んでるのが仕事か
お前が働けよって言ったら、納得していた


こうなって喜んでいるのだろうか
しんどいのは俺にも分かる

お前の車で、あてもなくドライブしよう
ポカリスエットは俺がおごるから
大音量でラモーンズを鳴らしてさ
また、俺の冗談を聞いてくれ