黄いろい太陽が辺り一面を照らしている
大気が響かない音叉のように不確かだ
吹雪く砂嵐のなかで
女が造られる
足首までが造られる
砂で眼が開けていられない
膝頭が造られる
ざらつく砂が頬を叩く、ふたたび叩く
風は海の向こうからやってくる
眼すら開けてはいられない
重みのある女の腰までが造られる
砂が体の中に入り込み身体じゅうがひび割れていく
腰のくびれと膨らんだ胸までが形を成してくる
鼓膜に砂を叩きつけて、耳が聞こえなくなる
大きく腰まで波打った髪が創られ
唇から入り込んだ砂は舌にのどに張り付きざらついた嫌な音を立てた
心臓部が埋め込まれる、
レアなステーキのような滴り、
指の先までどす黒い血にまみれている
ぬるぬるした感触が指先の爪の隙間から入り込み、血管を通って身体じゅうを支配していく
突然気味が悪くなって、その心臓部を両手で力一杯握り潰す
赤黒い液体が衣服や顔やわたしの目に飛散する、生まれない者の殺人者だ
首から顔にかけて完成が次第に近付いていく
女の顔がみたい、女の顔がみたい、
ぶつぶつと沼の底から泡が湧く
顔が造られる
眉毛から鼻への輪郭がくっきりと浮かび上がり
砂で溢れかけた夕日が右頬から滑り降りる斜角で照らし出す時
女の顔に、陰影を映しだす
おんなは瞳を映さないしろいデスマスクを顔に貼り付け
ただ、そらを見ている
瞳のないまぶたからそらのいろを映した涙が
次々と滴り溢れ落ちて、波が“ざぶり”と被り
女を壊し、
またもとの砂へとかえすのだ
拡がっていく
+ +
ウミネコが鳴いた
この吹きすさぶ視界を閉ざす激しい風の中
それでも、
もげかけた羽をばたつかせ、逆むいて
きしんだ腕を渾身の力でそらに向かってはばたかせようと
強風に耐え、幾度も海の底に落とされそうになりながら
断崖に突き出た煉瓦色の岩を求め、ただひたすらに求めて鳴く
東のそらから、月がぼんやりと
みえない影を装いながら、差し込んでくる
選出作品
作品 - 20120204_240_5853p
- [佳] 「砂の女」造形 - ひかり (2012-02)
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「砂の女」造形
ひかり